生成AIを使い始めてみたものの、「結局どの業務に使えばいいのか分からず、なんとなく触って終わってしまった」という声を、10人未満の会社の経営者からよく聞きます。大企業であれば、複数の部署で並行して試験導入し、効果測定を行いながら適用範囲を広げていく余裕がありますが、社員数人の会社にはそんな余裕はありません。試せる業務も、試す人手も限られている中で、最初の一手を外してしまうと「AIって思ったほど使えないな」という失望感だけが残り、その後の活用が停滞してしまいます。
この記事は、社員数人〜10人未満という規模の会社が、限られたリソースの中で最も効果を実感しやすい業務をどう選ぶか、その考え方と具体例を整理したものです。大企業向けの一般論ではなく、専任の推進担当を置けない小さな会社の事情に絞って解説します。
なぜ「最初の業務選び」がこれほど重要なのか
10人未満の会社では、AI活用の成否を左右する最大の要因は、実はツールの性能ではなく「最初にどの業務で試したか」です。理由は単純で、社員数が少ない会社では、一人ひとりの体験が会社全体の空気を作ってしまうからです。
大企業であれば、ある部署でAI活用がうまくいかなくても、別の部署で成功事例が生まれれば全体の評価は保たれます。しかし社員数人の会社では、最初に試した1〜2人の体験がそのまま「うちの会社にとってAIは使えるものか、使えないものか」という全社的な評価に直結します。最初の業務選びで小さな成功体験を作れるかどうかが、その後の活用の広がり方を大きく左右するのです。
良い「最初の業務」が満たすべき3つの条件
数ある業務の中から、最初に試すべき業務を選ぶ際の判断基準として、次の3条件を意識してください。
- 頻度が高いこと: 月に1回程度の作業では、効果を実感する機会自体が少なく、定着しません。毎日、あるいは毎週発生する業務が向いています
- 失敗しても影響が小さいこと: AIの出力にミスがあっても、大きな損害につながらない業務から始めるべきです。重要な契約書のチェックなど、失敗が許されない業務は最初の対象から外してください
- 効果が「見える」こと: 「なんとなく楽になった」ではなく、「これまで30分かかっていた作業が5分で終わった」のように、時間や労力の削減を本人が実感しやすい業務が理想です
この3条件を満たす業務は、意外と身近なところに存在します。次の章で具体的な候補を見ていきます。
業務選びの前に確認しておきたい社内の空気
具体的な業務を選ぶ前に、もう一つ考慮しておきたいのが、社内にAI活用に対する前向きな空気があるか、それとも懐疑的な空気が強いかという点です。10人未満の会社では、社員同士の距離が近いため、この空気の違いが最初の業務選びの成否に大きく影響します。
すでに社員が個人的にAIツールを使ってみて好感触を持っている場合は、比較的難易度の高い業務(資料の骨子作成など)から始めても前向きに受け止められやすいでしょう。逆に、AIに対して漠然とした不安や抵抗感を持つ社員が多い場合は、まず失敗のリスクが極めて小さい業務(定型文章の下書きなど)から始め、小さな成功体験を積み重ねることを優先してください。社内の空気を無視して業務の難易度だけで選んでしまうと、せっかくの取り組みが不必要な反発を招くこともあります。
候補①: 社内外向けの定型的な文章作成
多くの社員数人の会社で、最も早く効果を実感しやすいのが、メールの返信文、SNS投稿文、社内向けの連絡文といった定型的な文章作成です。特に、毎回ゼロから考えていた文面のたたき台をAIに作らせることで、「文章を考える」という思考の負荷が大きく減ります。
- 問い合わせへの返信メールの下書き作成
- SNS投稿の文言案の作成(複数パターンを出させて選ぶ)
- 社内向けの連絡文・お知らせ文の下書き
これらの業務は頻度が高く、失敗しても内容を確認してから送信すれば影響は小さく、時間短縮の効果も体感しやすいという点で、3条件をすべて満たしやすい領域です。
候補②: 議事録・会議メモの要約
10人未満の会社であっても、打ち合わせや商談の議事録作成には一定の時間が取られています。録音データやメモをもとに、AIに要約や整理を任せることで、議事録作成にかかる時間を大幅に削減できます。
議事録要約が最初の業務として優れている理由は、失敗した場合のリスクが比較的小さいことです。要約に多少の粗があっても、作成者が最終確認をすれば済みます。また、毎回の会議で発生する業務であるため頻度も高く、削減できた時間も「会議1回あたり20分の作業が5分になった」のように明確に体感できます。
ただし、議事録には顧客名や取引先名、商談金額といった機密情報が含まれることが多いため、入力する情報の範囲については事前の確認が必要です。この点については顧客情報を扱う会社が生成AIに「入力してよい範囲」を決めておくで詳しく解説していますので、あわせて参照してください。
候補③: 資料・提案書の骨子作成
ゼロから資料構成を考える作業は、多くの人にとって最も時間のかかる工程です。AIに「こういう内容の提案書を作りたい」と伝え、章立てや骨子のたたき台を出してもらうことで、白紙から考える時間を大幅に圧縮できます。
この業務は、頻度こそ議事録や定型文章ほど高くないかもしれませんが、1回あたりの時間削減効果が大きいという特徴があります。特に、資料作成に苦手意識を持つ社員がいる会社では、「何から書けばいいか分からない」という着手の壁を取り除く効果が大きく、AI活用への好感度を一気に高めるきっかけになりやすい業務です。
候補④: 表計算・データ整理の補助
10人未満の会社では、Excelやスプレッドシートを使ったデータ整理業務も日常的に発生します。関数の組み方が分からない、大量のデータを一定のルールで並べ替えたい、といった作業でAIに相談することで、これまで「なんとなく詳しい人」に頼っていた作業の一部を、誰でもこなせるようになる効果が期待できます。
| 業務内容 | AIに任せられる部分 |
|---|---|
| 関数の組み立て | やりたいことを説明すると数式案を提示してくれる |
| データの分類・整理 | ルールを伝えると分類の考え方を提案してくれる |
| 簡易的なグラフ化のアドバイス | どんなグラフが適切かの相談ができる |
この領域は、VBAマクロのような専門的なプログラミングスキルがなくても、AIとの対話を通じて業務改善のヒントを得られる点が、情シス不在の会社にとって特に価値があります。
避けるべき「最初の業務」の例
逆に、最初の業務として避けるべき領域もあります。次のような業務は、3条件のいずれかを満たさないため、初手としては不向きです。
- 法的な判断を伴う業務: 契約書のリーガルチェックなど、誤りが重大な結果につながる業務
- 高度な専門知識が必要な業務: 業界特有の複雑な計算や、専門資格が必要な判断業務
- 頻度が極端に低い業務: 年に数回しか発生しない業務は、慣れる前に忘れてしまい定着しません
- すでに専用システムで完結している業務: 会計ソフトの自動処理など、すでに効率化されている業務にAIを無理に組み込む必要はありません
これらの業務にAI活用を広げること自体は将来的にあり得ますが、「最初の一歩」としては不向きです。まずは3条件を満たす身近な業務から着手し、成功体験を積んでから徐々に対象を広げていくことをお勧めします。
社員の得意・不得意で業務選びを調整する
最初の業務を選ぶ際、会社全体で一律に同じ業務を対象にする必要はありません。社員それぞれの得意・不得意に応じて、最初に試す業務を個別に調整することも有効です。
例えば、文章を書くことが苦手な社員には文章作成の補助を、数字の整理が苦手な社員には表計算の補助を、というように、その人が最も負担を感じている業務から着手すると、効果を実感しやすくなります。逆に、すでに得意な業務にAIを導入しても、本人の実感としての効果は薄くなりがちです。「苦手を助けてもらう」という体験の方が、AIへの信頼感を育てやすいという特徴があります。
効果を測る簡単な方法
最初の業務でAIを試した後は、簡単でよいので効果を振り返る機会を設けてください。10人未満の会社であれば、大掛かりな効果測定の仕組みは不要で、次のような簡易的な振り返りで十分です。
- かかった時間の変化: 「以前は◯分かかっていたが、今は◯分で済んだ」を本人の感覚で記録する
- やってみた感想: 「思ったより楽だった」「まだ手直しが多くて大変だった」といった率直な感想を共有する
- 次に試したい業務: 効果を実感できた場合、次にどの業務へ広げたいかを本人に聞く
この振り返りは、正式な報告書である必要はなく、チャットツールでの一言共有程度で十分です。重要なのは、効果を「なんとなく」で終わらせず、少しでも言語化して社内に共有することです。共有された成功体験は、他の社員がAI活用に踏み出すきっかけにもなります。振り返りの内容を社内で蓄積していけば、いずれ「うちの会社ではこの業務でAIが効いた」という実例集にもなり、次に入ってくる新しいメンバーへの説明材料としても活用できます。
一つの業務で成功したら、次にどう広げるか
最初に選んだ業務で一定の効果を実感できたら、次のステップとして、類似する業務へ横展開していくことをお勧めします。例えば、メールの返信文作成で効果を感じたら、次はSNS投稿文の作成へ、議事録要約で効果を感じたら、次は提案書の骨子作成へ、というように、近い性質の業務から順に広げていくと、社員の抵抗感も少なく済みます。
一気に多くの業務へ広げようとすると、かえって管理が追いつかなくなり、顧客情報を扱う会社が生成AIに「入力してよい範囲」を決めておくで扱っているような情報管理のリスクも高まります。1業務ずつ、確実に定着させてから次に進む、という着実な広げ方が、10人未満の会社には向いています。
業種別に見る「最初の一手」の違い
ここまで紹介した候補は業種を問わず汎用的なものですが、業種によって特に効果を実感しやすい業務は変わってきます。
- 小売・サービス業: SNS投稿文や販促の文言作成が、日々の業務の中で最も頻度が高く効果を実感しやすい
- 製造業: 作業手順書や品質管理記録の文章整理が、属人化していたノウハウの言語化にもつながりやすい
- 士業・コンサル系: 提案書や報告書の骨子作成が、業務の中核である知的作業を補助する形で効果を発揮しやすい
- 建設・工事業: 現場報告書や見積書の下書き作成が、現場作業の合間に発生する事務負担の軽減につながりやすい
自社の業種特性を踏まえて、汎用的な候補リストの中から優先順位を組み替えることで、より早く効果を実感できる業務選びができます。
「効果が出ない業務」を見極める判断軸
最初の業務を試してみたものの、思ったほどの効果を実感できないこともあります。そうした場合、次のような判断軸で「その業務がそもそもAI向きだったか」を振り返ってみてください。
- 入力する情報が毎回大きく異なるか: パターン化しにくい業務ほど、AIの提案がそのまま使えず、結局最初から自分で考え直す手間がかかりがちです
- 正確性が最優先される業務か: 数字の正確な計算や、一言一句の間違いが許されない文書は、AIの下書きを丁寧にチェックする時間の方がかかってしまうことがあります
- 担当者がそもそもAIに抵抗感を持っていないか: どれだけ業務内容が適していても、使う本人が心理的な抵抗を感じている場合、効果を実感しにくくなります
これらの判断軸に照らして「この業務は向いていなかった」と分かった場合は、無理にその業務での活用を続けるのではなく、別の候補業務に切り替える柔軟さを持つことが大切です。
業種特有の専門用語への対応
生成AIに業務を任せる際、自社の業種特有の専門用語や社内独自の呼び方が正しく伝わらず、期待した結果が返ってこないことがあります。特に、製造業の工程名や、業界特有の略語、社内でだけ通じる商品名などは、AIが文脈から正確に理解できないケースも珍しくありません。
この場合の対処法として、最初の指示を出す際に、専門用語の簡単な説明を一緒に添えることをお勧めします。例えば「弊社では〇〇という工程を△△と呼んでいます」といった一文を加えるだけで、AIの理解度が大きく改善することがあります。一度説明を加えた上でのやり取りを、社内でテンプレート化しておくと、他の社員も同じ工夫を再利用でき、業種特有の壁を乗り越えやすくなります。
業務選びの振り返りを次の担当者育成につなげる
最初の業務でAI活用に成功した社員は、いわば社内の「小さな先生」になります。その社員が得たコツや工夫を、他の社員へ共有する場を設けることで、会社全体としてのAI活用のレベルを底上げできます。
10人未満の会社であれば、正式な研修制度を作る必要はなく、成功した社員が15分程度で他のメンバーに「こうやって指示を出すとうまくいく」というコツを共有するだけでも十分効果があります。この共有の積み重ねが、特定の1人に知識が偏る新たな属人化を防ぎ、会社全体としてAIを使いこなす土壌を育てていきます。
業務選びで社員の意見をどう吸い上げるか
代表や総務担当だけで最初の業務を決めるのではなく、実際に日々の業務を担っている社員の声を聞くことも重要です。「今、一番時間がかかっていて面倒だと感じている作業は何か」を社員に直接聞いてみると、経営者側の想定とは違う業務が候補として挙がることがあります。
10人未満の会社であれば、この聞き取りも堅苦しい形式にする必要はなく、ランチタイムの雑談やチャットでの一言質問で十分です。現場の実感に基づいた業務選びは、机上の想定よりもはるかに高い確率で効果を実感できる結果につながります。
「時間削減」以外の効果にも目を向ける
業務選びの3条件では「効果が見える」ことを重視しましたが、効果は必ずしも時間削減という数字だけで測れるものではありません。10人未満の会社では、次のような定性的な効果も見逃さずに評価することをお勧めします。
- 心理的な負担の軽減: 「文章を書くのが苦手」という苦手意識が薄れることで、業務そのものへの抵抗感が減る
- アウトプットの質の底上げ: 誤字脱字のチェックや表現の見直しにより、対外的な文書の品質が安定する
- 新しい発想のきっかけ: AIが提示する複数の選択肢を見ることで、自分一人では思いつかなかった切り口に気づく
こうした定性的な効果は数値化しにくいものの、社員のモチベーションや業務への向き合い方に良い影響を与えることがあります。最初の業務選びの振り返りの際には、時間削減の数字だけでなく、こうした感覚的な変化についても社員に聞いてみることをお勧めします。
経営者自身も「最初の業務」を一緒に試す
代表が社員に業務を割り振るだけで自分は試さない、という進め方では、現場の実感とのズレが生まれやすくなります。可能であれば、代表自身も最初に選んだ業務のいずれかを自分の手で試してみることをお勧めします。
経営者自身が実際に手を動かしてみることで、「思ったより簡単だった」「ここは少しコツが要る」といった実感を持つことができ、社員への説明やフォローの際にも説得力が増します。また、社員だけに試させて代表は関与しない、という状態は、社員側から見ると「なぜ自分たちだけがテスト台にされているのか」という不満につながることもあります。経営者自身も同じ目線で取り組む姿勢を見せることが、10人未満の会社ならではの一体感を保つ上でも重要です。
外注していた作業をAIで内製化する視点
10人未満の会社では、資料のデザイン、簡単な文章の校正、翻訳など、これまで外部業者に依頼していた作業もあります。生成AIの活用先として、こうした「これまで外注していた軽微な作業」を内製化できないか検討することも、一つの有効な視点です。
もちろん、専門性の高い業務まで全てAIに置き換えられるわけではありませんが、簡単な翻訳のたたき台作成や、文章の校正・言い回しの改善といった軽度な作業であれば、外注コストを抑えながら社内で完結できる可能性があります。ただし、外注先との関係やコストバランスも考慮する必要があるため、いきなり全ての外注を打ち切るのではなく、まずは一部の軽微な作業から試験的に内製化を進めることをお勧めします。
よくある失敗: 一度にたくさんの業務で試そうとする
最初の業務選びでよくある失敗が、「せっかくだから色々試してみよう」と一度に複数の業務でAIを使わせてしまうパターンです。一見前向きに見えますが、実際には次のような問題が起こりがちです。
「あれもこれも試したが、結局どれも中途半端で、効果があったのかどうか分からなくなった」
複数の業務を同時に試すと、どの業務でどれだけの効果があったのかが曖昧になり、成功体験として社内に共有しづらくなります。最初は1〜2個の業務に絞り込み、効果をしっかり実感してから次の業務へ広げる、という一点集中の進め方の方が、結果的に定着のスピードは速くなります。
候補⑤: プログラミング・簡易的な自動化の相談
情シスという専門部署がない会社では、簡単な自動化やちょっとしたプログラムの作成も、これまでは「詳しい人」や外部業者に頼るしかありませんでした。生成AIは、こうした軽度なプログラミング相談の初手としても活用できます。
例えば、表計算ソフトのマクロで日々の定型作業を自動化したい、複数のツール間の連携を組みたい、といった相談を、AIとの対話を通じて進めることができます。専門知識がなくても、「こういう作業を自動化したい」という要望を伝えるところから始められるため、これまで諦めていた小さな自動化に着手するきっかけになります。
ただし、この領域は「候補③良い業務が満たすべき条件」のうち、失敗時の影響がやや大きくなりやすい点に注意が必要です。生成された数式やコードをそのまま業務に組み込む前に、必ず小さな範囲でテストしてから本番運用に移す、という慎重さを持って進めてください。
候補⑥: 求人票・採用関連文章の作成
10人未満の会社では、人事や採用の専任担当者がいないことも多く、求人票の作成や応募者への返信文にも意外と時間がかかっています。生成AIを使えば、求める人物像や業務内容を伝えるだけで、求人票のたたき台を短時間で作成できます。
この業務は、頻度としては毎月ではないかもしれませんが、採用活動を行っている期間中は繰り返し発生するため、効果を実感しやすい業務の一つです。また、応募者への丁寧な返信文の作成にも活用でき、採用活動全体の印象向上にもつながります。
最初の業務選びを「1人だけ」に任せない
最初に業務を選ぶ際、代表や特定の1人だけが判断してしまうと、その人の業務範囲に偏った選択になりがちです。可能であれば、社員数人であっても、それぞれの担当業務の中から「これなら試せそう」という候補を出し合う場を設けることをお勧めします。
各自が自分の業務の中から候補を出し合うことで、代表一人では気づけなかった業務の非効率が見つかることもあります。10人未満の会社であれば、こうした話し合いも15分程度のミーティングで十分完結します。
最初の業務で失敗した場合の立て直し方
最初に選んだ業務で、思ったような効果が出なかった場合も想定しておくべきです。効果が出ない理由は、業務選び自体が間違っていた場合と、AIへの伝え方(指示の出し方)が不慣れだった場合の大きく2つに分かれます。
前者であれば、3条件に立ち返って別の業務を選び直すことが最善です。後者であれば、AIへの指示の出し方(どんな情報を、どんな順序で伝えるか)を少し工夫するだけで結果が大きく改善することもあります。いずれの場合も、「AIが使えなかった」と結論を急がず、まず何が原因だったのかを振り返ることが、次の一手につながります。
季節・繁忙期に応じた業務選びのタイミング
10人未満の会社の多くは、業種によって繁忙期と閑散期がはっきり分かれています。新しい取り組みであるAI活用を始めるタイミングも、この繁忙期・閑散期のリズムを考慮すると、より無理なく定着させられます。
繁忙期の真っ只中に新しいツールの使い方を覚えようとすると、目の前の業務に追われて十分に試す時間が取れず、中途半端なまま終わってしまいがちです。可能であれば、比較的落ち着いている閑散期に最初の業務選びと試行を行い、繁忙期に入る前にある程度使い方に慣れておく、という進め方をお勧めします。閑散期がない業種の場合は、週の中で比較的落ち着いている曜日や時間帯を選んで、少しずつ試していく方法でも構いません。
複数拠点・テレワークがある場合の業務選び
10人未満の会社であっても、複数の拠点で営業している、あるいは一部の社員がテレワークで勤務している、というケースもあります。こうした場合、対面でのちょっとした相談がしにくい分、文章でのやり取りに費やす時間が相対的に多くなる傾向があります。
拠点間の連絡文書の作成や、テレワーク中の社員への業務指示の文章化など、離れた場所にいる相手に正確に伝わる文章を作る場面は、AI活用の効果を実感しやすい候補の一つです。特に、対面であれば口頭で済んでいたニュアンスの伝達を、文章として明文化する必要が生じる場面において、AIによる文章の下書き作成は着実に負担を減らしてくれます。
まとめ: 身近で頻度の高い業務から、小さく確実に
社員数人〜10人未満の会社が生成AIで真っ先に効果を出すためには、「頻度が高く」「失敗しても影響が小さく」「効果が見えやすい」という3条件を満たす業務から着手することが何より重要です。メールの下書き、議事録の要約、資料の骨子作成、表計算の補助——これらはいずれも、多くの会社で日常的に発生し、かつ失敗のリスクが小さい業務です。
最初の一歩で小さな成功体験を作れれば、その体験は社内に自然と広がっていきます。逆に、最初にリスクの高い業務やレアケースの業務で試してしまうと、「AIは使えない」という誤った結論が定着しかねません。まずは身近な業務を1つだけ選び、小さく確実に効果を実感するところから始めてください。
業務選びが固まったら、あわせて確認しておきたいのが、その業務でどこまでの情報をAIに入力してよいかという線引きです。議事録の要約や資料作成には、顧客名や取引先の情報が含まれることも多く、業務選びと情報の入力範囲は切り離せない関係にあります。この点は顧客情報を扱う会社が生成AIに「入力してよい範囲」を決めておくで具体的に整理していますので、業務を選んだら次にこちらも確認しておくと安心です。
業務選びは一度きりの作業ではなく、会社の成長とともに繰り返していくものです。最初の1業務で得た知見は、次の業務を選ぶ際の判断力を確実に高めてくれます。焦らず、身近なところから一歩ずつ広げていってください。自社の状況を客観的に把握したい場合はひとり情シス危険度診断もあわせてご活用ください。

