取引先から「サイバー保険には加入していますか」と聞かれた。あるいは、ニュースでランサムウェア被害の記事を見て、経営者が「うちも保険に入っておくべきでは」と言い出した。30人未満の会社でこうしたきっかけからサイバー保険・情報漏えい保険の検討が始まるケースは少なくありません。
保険への加入自体は、決して間違った判断ではありません。むしろ、事故が起きた際の金銭的な備えとして有効な選択肢の一つです。しかし、保険を検討し始めた総務・経営者の方に、まず立ち止まって考えてほしいことがあります。それは、「保険はリスクを移転する手段であって、リスクそのものを減らす手段ではない」という基本的な事実です。保険に加入していても、事故そのものが起きにくくなるわけではありません。事故が起きた後の金銭的な損失をカバーしてくれるだけです。
30人未満の会社では、専任の情シスがいないまま、総務や経営者がセキュリティ対策の判断を下さなければならない場面が増えています。そうした状況で「まず保険」という発想に流れるのは自然な反応ですが、限られた予算をどこに振り向けるかという意思決定である以上、保険料と基本対策の投資対効果を比較検討する視点が欠かせません。
このガイドでは、保険の是非そのものを論じるのではなく、保険を検討する前に、あるいは保険と並行して、まず固めておくべき基本的な技術的対策の優先順位を解説します。保険商品そのものの選び方や比較検討の詳細には立ち入らず、あくまで「保険に加入する前に社内で確認・実施しておくべきこと」に焦点を絞って解説することをあらかじめお断りしておきます。
30人未満の会社が保険を検討し始めるきっかけ
保険の検討が始まるきっかけは、会社によってさまざまです。取引先の与信審査や契約更新の際に「サイバー保険への加入状況」を確認するチェック項目が含まれていた、業界団体や商工会議所が主催するセミナーで保険商品の紹介を受けた、あるいは同業他社がランサムウェア被害に遭ったというニュースを聞いて経営者が不安を覚えた、といったパターンが典型的です。
きっかけがどのようなものであれ、重要なのは「保険を検討し始めた」という事実そのものを、社内のセキュリティ対策を見直す好機として活用することです。保険会社との商談や見積もり取得の過程では、多くの場合、自社の現状を棚卸しして伝える必要が生じます。この棚卸しの作業自体が、普段は後回しにされがちな基本対策の状況を、あらためて可視化するきっかけになります。
なぜ「保険より先に対策」なのか
保険を検討する会社の多くが見落としがちなのが、保険会社の審査や保険料の算定において、加入企業の基本的なセキュリティ対策の実施状況が確認される場合があるという点です。契約前の質問票で「多要素認証を導入しているか」「バックアップを取得しているか」といった項目への回答を求められることは珍しくなく、対策が不十分な状態だと、保険料が割高になったり、そもそも希望する補償内容での契約が難しくなったりする可能性があります。
さらに重要なのは、保険はあくまで「金銭的な補償」に限定されるという点です。情報漏えい事故が起きた場合、実際に会社が失うのは保険で補填できる直接的な損害賠償費用だけではありません。取引先からの信用の毀損、事故対応に追われる期間の業務停滞、対外的な説明・謝罪対応にかかる労力など、保険ではカバーしきれない損失が多く発生します。IPAが公開している「情報セキュリティ10大脅威」でも、ランサムウェア攻撃や委託先・取引先を狙った攻撃が継続して上位に挙げられており、被害の実態は金銭的補償だけで解決しない性質のものであることが繰り返し示されています。
保険は「起きてしまった後」の備えです。「起きにくくする」対策を後回しにしたまま保険だけ厚くしても、事業継続へのダメージそのものは防げません。この順序を取り違えると、限られた予算を投じたにもかかわらず、肝心の被害発生そのものは何も減っていない、という結果になりかねません。
つまり、保険への加入を検討するのであれば、それと同時に「そもそも事故が起きにくい状態を作る」基本対策に着手することが、保険料の観点でも、実質的なリスク低減の観点でも合理的な順番になります。このガイドで示す優先順位は、IPAが公表している中小企業向けの情報セキュリティ対策ガイドラインの考え方に沿ったものです。
優先順位を決める際の考え方: 発生確率と影響度で見る
優先順位1〜4を紹介する前に、そもそもなぜこの順番になるのかという考え方を共有しておきます。限られたリソースで対策を進める際は、「発生する確率がどれくらい高いか」と「発生した場合の影響がどれくらい大きいか」という2つの軸で対策の優先度を判断するのが基本です。
不正アクセスやランサムウェアは、IPAの「情報セキュリティ10大脅威」で継続的に上位に位置づけられており、発生確率・影響度ともに高い脅威です。一方で、退職者アカウントの放置や端末管理の不備は、直接的な攻撃の入口にはなりにくいものの、放置期間が長引くほどリスクが積み重なる性質を持っています。この記事の優先順位1〜4は、発生確率・影響度の高いものから並べた結果であり、自社の業種や取引形態によっては、順番を入れ替えて検討しても構いません。例えば、個人情報を大量に扱う業種であれば、端末管理や資産の可視化を早い段階で優先すべき場合もあります。
優先順位1: アカウントへの不正アクセス対策
保険加入前に最優先で固めるべきなのが、アカウントへの不正アクセス対策です。国家公安委員会・総務省・経済産業省が公表している「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」でも、不正アクセスの主要な手口として、他のサービスから漏えいしたパスワードを使い回すパスワードリスト型攻撃や、フィッシングによる認証情報の窃取が継続して報告されています。
30人未満の会社で最初に着手すべき具体策は次の2つです。
- 多要素認証(MFA)の全社導入: 特に影響範囲の大きいメールシステム、クラウドストレージ、会計ソフトの管理者アカウントから優先して設定してください。パスワードだけの認証は、パスワードが漏えいした瞬間に突破されてしまいますが、多要素認証があれば不正ログインのリスクを大幅に下げられます
- 管理者アカウントの数を必要最小限に絞る: 「念のため」で管理者権限を付与したままのアカウントが放置されていないか確認し、業務上必要な人だけに絞り込みます
多要素認証の導入は、専門知識がなくても始められる対策でありながら、効果が大きいという点で、保険加入より先に着手すべき筆頭候補です。具体的な導入手順は多要素認証(MFA)は中小企業の最低限のセキュリティ対策で解説しています。
優先順位2: バックアップとランサムウェア対策
2番目に固めるべきなのが、データのバックアップ体制です。ランサムウェア攻撃はIPAの「情報セキュリティ10大脅威」で組織向けの脅威として長年にわたり最上位に位置づけられており、感染するとファイルが暗号化され、身代金を要求される被害に直結します。バックアップが適切に取得されていれば、身代金を支払わずに復旧できる可能性が高まりますが、バックアップ自体が同じネットワーク上にあると、そこも一緒に暗号化されてしまうリスクがあります。
保険加入前に確認すべきポイントは次の3つです。
- バックアップが本番環境と物理的・論理的に分離されているか: 同じサーバーやネットワーク上にバックアップを置いていると、ランサムウェア感染時に一緒に被害を受けます
- バックアップから実際に復元できるかをテストしたことがあるか: 「バックアップは取っているが、一度も復元テストをしたことがない」という状態は非常によくある落とし穴です
- バックアップの世代管理がされているか: 直近1世代だけでなく、複数世代を保持しておくことで、感染に気づくまでに時間がかかった場合でも、感染前の状態に戻せる可能性が高まります
バックアップ設計の基本的な考え方については中小企業のバックアップ設計入門(3-2-1ルール)で詳しく解説しています。保険会社によっては、契約前の質問票でバックアップの取得状況を確認する場合もあり、ここを固めておくことは保険審査の面でも有利に働く可能性があります。
優先順位3: 退職者・異動者のアカウント削除フロー
30人未満の会社では、部署が複数に分かれ始めることで、退職者や異動者のアカウント削除が「言った・言わない」の連携ミスで漏れるケースが目立ち始めます。放置された退職者アカウントは、外部からの不正アクセスの標的になるだけでなく、内部不正のリスクにもつながります。IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン」でも、アカウントの棚卸しと権限の適正な管理は内部不正対策の基本として位置づけられています。
部署ごとにバラバラだった退職者アカウントの削除フローを統一する具体的な進め方は、部署ごとにバラバラな退職者アカウント削除フローを統一する方法で扱っています。保険加入を検討するタイミングは、こうした運用面の抜け漏れを見直す良いきっかけにもなります。
優先順位1〜3の間に潜む見落とし: 委託先・取引先経由のリスク
優先順位1〜3で挙げた不正アクセス対策・バックアップ・退職者アカウント対策は、いずれも自社の内部で完結する対策です。しかし、IPAの「情報セキュリティ10大脅威」では、自社を直接狙う攻撃だけでなく、取引先や委託先を経由した攻撃(サプライチェーン攻撃)が組織向けの脅威として長年上位に位置づけられています。30人未満の会社であっても、大企業と取引がある場合、その大企業への攻撃の踏み台として狙われる可能性はゼロではありません。
保険の検討時には、この観点も忘れずに確認してください。取引先から情報セキュリティに関するアンケートや誓約書の提出を求められた経験がある会社は少なくないはずです。そうした要求に日頃から対応できる体制を整えておくことは、保険加入の判断とは別に、取引の継続そのものに関わる重要な備えです。委託先・取引先とのやり取りにおける情報セキュリティ対策の基本的な考え方は、中小企業のセキュリティ対策、最低限やるべき10項目でも扱っています。
優先順位4: 端末のセキュリティ対策と資産の可視化
4番目に固めるべきなのが、社員が使っている端末(パソコン・スマートフォン)の基本的なセキュリティ対策です。ウイルス対策ソフトの導入状況、OSやソフトウェアのアップデート状況、そして何より「会社にどれだけの端末があり、誰が使っているか」という資産の可視化ができているかを確認してください。
資産が可視化できていない状態では、そもそも事故が起きたときに「どの端末から漏れたのか」「影響範囲はどこまでか」を特定すること自体が困難になります。事故対応の初動が遅れれば遅れるほど、被害は拡大しやすくなります。IT資産管理の始め方は中小企業のIT資産管理の始め方を、社用スマートフォンの管理は社用スマホの管理(MDM)入門を参照してください。
私物端末で会社のクラウドサービスにアクセスしている実態が把握できていない場合も、この段階で洗い出しておくべきです。詳しくは私物スマホで会社のクラウドにアクセスしている実態を把握する方法で扱っています。
「保険に入れば安心」と考えてしまう心理的な背景
なぜ多くの会社が、基本的な対策よりも先に保険の検討に走ってしまうのでしょうか。背景には、保険への加入が「今すぐ完了できる対策」であるのに対し、多要素認証の導入やバックアップ体制の整備は「時間と手間のかかる地道な作業」であるという感覚の違いがあります。保険は契約書にサインをすれば即座に「対策した」という実感を得られますが、技術的な対策は地道な設定変更の積み重ねであり、達成感を得にくいという性質があります。
しかし、事故が実際に起きた場面を想像すると、この感覚のズレが見えてきます。ランサムウェアに感染してファイルが暗号化された場合、保険は身代金や復旧費用の一部を補填してくれるかもしれませんが、暗号化されたデータそのものを元に戻す手段にはなりません。データを元に戻せるのは、事前に取得していたバックアップだけです。保険と技術的対策は、どちらか一方で足りるものではなく、両輪として機能する備えだと理解しておくことが重要です。
保険を検討する際にチェックすべき項目
基本的な技術的対策の優先順位を押さえた上で、実際に保険を検討する段階になったら、次のような視点でチェックしてください。
| チェック項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 契約前の質問票にある対策項目 | 多要素認証・バックアップ・資産管理など、保険会社が加入条件として求める対策の水準を事前に把握できる |
| 免責事項の範囲 | 既知の脆弱性を放置していた場合や、基本的な対策を怠っていた場合に補償対象外となる条件が定められていることがある |
| 補償の対象範囲 | 損害賠償費用だけでなく、事故対応の調査費用、コールセンター設置費用、信用回復費用まで含まれるかを確認する |
| 保険料と対策状況の関係 | セキュリティ対策の実施状況に応じて保険料が変動する場合があるため、対策を先に固めておくことで条件が有利になる可能性がある |
保険の契約内容や免責事項は保険会社・商品ごとに大きく異なるため、この記事では一般的な傾向のみを示しています。実際の契約検討時は、保険代理店や保険会社に直接、免責事項と加入条件を確認することを強くお勧めします。
30人未満の会社の場合、保険料の負担が経営に与えるインパクトも無視できません。補償範囲を広げれば広げるほど保険料は高くなる傾向にあるため、「何にどこまで備えるか」を最初に整理してから商品を比較することをお勧めします。例えば、自社が保有する個人情報の量や、取引先との契約で求められている損害賠償の上限額などを踏まえ、必要な補償範囲を先に見積もっておくと、保険会社との商談もスムーズに進みます。複数の保険会社・代理店から見積もりを取り、補償内容と保険料のバランスを比較検討する時間も、対策と並行して確保しておくとよいでしょう。
保険料を左右する要因としての「対策の証跡」
保険会社が保険料や加入条件を判断する際、単に「対策をしています」という自己申告だけでなく、その対策を実施した証跡(記録)の有無が重視される場合があります。例えば、多要素認証をいつ、どのアカウントに設定したか、バックアップの復元テストをいつ実施したか、といった記録が残っていれば、対策の実効性を客観的に示す材料になります。
30人未満の会社では、こうした対策を「やったつもり」で終わらせてしまい、実施した日付や内容の記録を残していないケースが多く見られます。この記事で挙げた優先順位1〜4に取り組む際は、単に作業を実施するだけでなく、「いつ」「何を」実施したかを簡単なメモやスプレッドシートに残しておくことをお勧めします。この記録は、保険加入時の質問票への回答をスムーズにするだけでなく、万が一事故が起きた際に、自社がどこまで対策していたかを示す証拠にもなります。
保険加入後も対策のアップデートを止めない
保険に加入した後も、技術的な対策は一度整えたら終わりではありません。攻撃の手口は年々変化しており、IPAの「情報セキュリティ10大脅威」も毎年更新され、新しい脅威(近年ではAIを悪用したサイバーリスクなど)が加わっています。保険の契約更新時には、加入時点での対策状況だけでなく、その後の対策のアップデート状況も確認されることがあります。
保険加入をゴールにするのではなく、保険加入をきっかけとして、定期的に自社の対策状況を見直す習慣をつけることが望ましい姿勢です。半年に1回、あるいは保険の更新時期に合わせて、この記事で示した優先順位1〜4の対策状況を棚卸しする機会を設けてください。
「保険に入ったから安心」という誤解を避ける
保険を検討し始めると、社内で「保険に入ったから、もう対策は十分」という空気が生まれてしまうことがあります。これは最も避けるべき誤解です。保険はあくまで金銭的な補償の手段であり、事故そのものの発生確率を下げる手段ではありません。保険加入の議論をきっかけに社内のセキュリティ対策への関心が高まったのであれば、その勢いを「保険に入って終わり」にせず、この記事で示した優先順位に沿った基本対策の実施にもつなげてください。
経営層に対して、保険の検討と基本的な技術的対策をセットで説明する際は、「保険は万が一の金銭的な備え、基本対策は事故そのものを起きにくくする備え」という役割の違いを明確に伝えると理解が得やすくなります。予算の説明の仕方については情シス予算の作り方と経営層への説明方法も参考にしてください。
経営者が保険の話を持ち出したときの、担当者としての受け止め方
総務や情シスを兼務する担当者にとって、経営者から「サイバー保険を検討しよう」と言われた瞬間は、実は好機でもあります。セキュリティ対策への投資は、平時には経営層の関心を引きにくいテーマですが、保険という具体的な話題が出た瞬間は、経営層がリスクに意識を向けているタイミングだからです。
この機会を、単に保険会社への問い合わせだけで終わらせず、「保険を検討するなら、まず基本的な対策から確認させてください」と提案してみてください。経営者の多くは、保険と技術的対策が別物であることを意識していない場合があります。担当者側から両者の関係を整理して伝えることで、保険料の交渉材料としても、実質的なリスク低減としても意味のある提案ができます。
具体的な伝え方の例としては、次のような流れが有効です。
- まず「保険は事故が起きた後の金銭的な備えであり、事故そのものを防ぐものではない」という前提を共有する
- この記事で示した優先順位1〜4(不正アクセス対策・バックアップ・退職者アカウント削除・端末資産管理)の現状を簡潔に報告する
- 「基本対策を先に固めることで、保険の審査や保険料の面でも有利になる可能性がある」と伝え、対策への投資と保険加入を並行して進める提案をする
この流れで説明すると、経営者にとっても「保険に入るだけ」より納得感のある投資判断がしやすくなります。予算の説明の仕方全般については情シス予算の作り方と経営層への説明方法も参考にしてください。
中小企業のセキュリティ対策の全体像を押さえる
ここまで紹介した優先順位1〜4は、あくまで保険加入前に最低限固めるべき項目に絞ったものです。中小企業が取り組むべきセキュリティ対策の全体像をより網羅的に把握したい場合は、中小企業のセキュリティ対策、最低限やるべき10項目もあわせて参照してください。IPAが公表している「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」に沿った内容で、保険の検討とは独立して押さえておくべき基本項目が整理されています。
また、ランサムウェア攻撃への具体的な備えについてはランサムウェア対策は何から始めるかで、より踏み込んだ対策を解説しています。保険の補償範囲とあわせて、攻撃そのものへの備えも並行して進めることをお勧めします。
保険加入を機に、社内の「もしも」の連絡フローも見直す
保険の検討は、技術的な対策だけでなく、事故が起きた際の社内の連絡フローを見直す良いきっかけにもなります。実際に情報漏えいやランサムウェア感染が発生した場合、保険を使うかどうかの判断以前に、まず「誰が」「どの順番で」「何を」対応するかが決まっていなければ、初動が大きく遅れます。
30人未満の会社では、こうした緊急時対応のフローが文書化されていないことがほとんどです。保険会社によっては、事故発生時の緊急連絡窓口やサポートデスクを提供している場合もありますが、その連絡先を社内の誰が把握しているか、いざというときにすぐ確認できる場所に保管されているかまで確認しておく必要があります。保険証券や契約内容の控えを、経営者だけでなく、総務や情シス担当者も参照できる場所に保管しておくことをお勧めします。
緊急時の連絡フローを整備する際は、次の項目を最低限決めておいてください。
- 事故に気づいた社員が、最初に誰に報告すべきか
- 報告を受けた担当者が、次に誰にエスカレーションするか(経営者・保険会社・必要に応じて外部の専門家)
- 取引先や顧客への説明が必要になった場合、誰が窓口になるか
これらを事前に決めておくことで、実際に事故が起きた際の混乱を最小限に抑えられます。保険の契約はゴールではなく、こうした緊急時対応の体制を整えるきっかけの一つとして活用してください。
まとめ: 保険は「対策の代わり」ではなく「対策の先にある備え」
30人未満の会社が情報漏えい保険・サイバー保険を検討する際、まず押さえておくべきなのは、保険が事故そのものを防ぐ手段ではないという基本的な事実です。多要素認証の導入、バックアップ体制の整備、退職者アカウントの削除フロー統一、端末の資産可視化という4つの優先順位を固めた上で保険を検討することで、保険料や加入条件の面でも有利になる可能性が高く、何より事故が起きにくい会社そのものに近づけます。
保険の検討は、社内のセキュリティ意識を高める良いきっかけになります。この機会を「保険に入って終わり」にせず、基本的な対策の総点検につなげてください。自社が今どの程度対策できているかを客観的に把握したい場合はひとり情シス危険度診断を、チェック形式で一つずつ確認したい場合はチェックリスト集もあわせてご活用ください。
保険の検討を通じて自社のリスクを見つめ直す作業は、一度きりで終わるものではありません。取引先が増えたり、新しいシステムを導入したりするたびに、備えるべきリスクの中身も変化していきます。基本対策と保険加入をセットで捉え、定期的に両方を見直していく姿勢が、30人未満の会社にとって現実的で持続可能なリスクマネジメントの形です。
保険代理店や保険会社との商談に臨む際は、この記事で示した優先順位1〜4への着手状況を簡潔にまとめたメモを1枚用意しておくことをお勧めします。「対策済み」「着手中」「未着手」の3段階で構わないので、現状を整理して持参するだけで、商談の質が大きく変わります。担当者側の説明の手間も減り、保険会社側も自社のリスクをより正確に評価できるようになるため、双方にとって有益な準備です。

