「記録を残さなければいけない」ということは、兼任で情シスを担っているほとんどの人が頭では分かっています。しかし実際には、目の前のトラブル対応や本業の締め切りに追われ、記録は後回しになりがちです。「今度まとめて書こう」と思っているうちに、対応した内容の細部を忘れ、結局書かずじまいになる。この繰り返しが、気づけば「自分しか分からない」状態を作り出しています。

このガイドが前提にしているのは、「完璧な記録は、兼任の立場では続かない」という現実です。世の中には運用ドキュメントの模範例や、体系的なナレッジベースの作り方を紹介する情報があふれていますが、それらの多くは専任の情シスチームが前提になっており、本業7割・情シス3割という兼任者がそのまま真似すると、記録作業自体が新たな負担になり、結局挫折します。

このガイドでは、続けることを最優先に置いた「最低限の記録範囲」を、具体的に切り分けて提示します。全部を記録しようとせず、記録すべきものを絞り込むことこそが、兼任情シスにとって現実的な属人化対策です。

このガイドが扱うのは、あくまで「日々の記録習慣」に限定した話です。すでに会社の中に散らばっている社内システムを網羅的に調べ上げ、管理台帳として整備する作業は、また別の切り口の話になります。棚卸しそのものの進め方や優先順位のつけ方については、30-100人規模で複数部署から集まる野良システムの棚卸し優先順位で扱っていますので、まだ現状把握が済んでいない場合はそちらを先に読むことをお勧めします。このガイドは、棚卸しが一段落した後、あるいは棚卸しと並行して、日々の業務の中でどう記録を積み重ねていくかにフォーカスしています。

なぜ兼任者の記録は続かないのか

記録が続かない理由を分解すると、大きく3つのパターンに整理できます。

  • 記録の粒度が細かすぎる: 全ての操作、全ての判断を記録しようとすると、記録作業そのものに本業を圧迫するほどの時間がかかってしまいます
  • 記録するタイミングを逃す: トラブル対応中は目の前の解決を優先し、対応が終わった頃には次の業務に追われて記録する余裕がなくなります
  • 記録の型が決まっていない: 何をどこにどう書けばいいかが決まっていないと、書き始めるまでの心理的なハードルが上がり、後回しにされがちです

これら3つの原因はいずれも、「記録すべき範囲」と「記録の型」が最初から決まっていないことに起因します。逆に言えば、範囲と型さえあらかじめ決めておけば、記録は「考える作業」ではなく「埋める作業」になり、継続のハードルが大きく下がります。

もう一つ、見落とされがちな原因があります。それは「記録する意味を実感できていない」ことです。専任の情シスチームであれば、複数人が同じ情報を参照する場面が日常的にあり、記録の効果を実感しやすい環境にあります。一方、兼任のひとり情シスは、記録を残しても当面それを参照するのは自分だけであり、「今書いても、今すぐ役に立つわけではない」という感覚から、優先順位が下がりやすい構造があります。この感覚のズレを埋めるには、「今の自分のため」ではなく「半年後・1年後の自分、あるいは自分が不在のときに困る誰か」のために書くという意識の切り替えが必要です。多くの担当者が記録の重要性に気づくのは、実際に半年前の対応を思い出せず困った経験をしたときです。その経験をする前に、意識的に記録の習慣を先取りしておくことが、このガイドの狙いです。

記録すべき最低限の3種類

兼任情シスがまず記録すべき対象を、次の3種類に絞り込みます。それ以外は、余力があれば記録する程度で構いません。

記録の種類記録する理由記録の頻度目安
①判断の理由「なぜそう決めたか」は後から再現できない重要な意思決定をした都度
②非定型トラブルの対応内容頻出しないトラブルほど記憶が薄れる発生の都度、解決直後
③外部との取り決め契約・ベンダーとの合意事項は口約束のまま失われやすい取り決めが発生した都度

逆に、日々のルーティン作業(毎週同じ手順で行うバックアップ確認等)や、頻繁に発生する定型的な問い合わせ対応(パスワード再発行の手順等)は、優先度を下げて構いません。これらは手順書として一度まとめてしまえば十分で、毎回の対応記録までは不要です。「頻度が高く再現性のある作業は手順書に一本化し、頻度が低く再現性の低い判断・トラブル・取り決めだけをその都度記録する」という住み分けが、記録の総量を無理なく抑えるコツです。手順書化そのものについては、属人化の解消という文脈で属人化していた社内システム、引き継いだら最初に何を調べるかでも触れている考え方が参考になります。

①「判断の理由」を記録する重要性

3種類の中でも、最も見落とされやすく、かつ最も重要なのが「判断の理由」の記録です。「どのSaaSを選んだか」「どのセキュリティ設定にしたか」という結果だけでなく、「なぜその選択をしたか」という理由まで書き残しておく必要があります。

理由が記録されていないと、後から見た人(それが将来の自分自身であっても)は、「なぜこんな設定になっているのか分からないが、変更して問題が起きたら困るので、とりあえずこのままにしておこう」という思考停止に陥りがちです。この「触ると危ないから触らない」という状態が積み重なると、社内システム全体が徐々にブラックボックス化していきます。過去にどのような経緯でその設定に至ったのかが分からないまま、誰も手を入れられないシステムが増えていくと、新しい施策を打とうとするたびに「まず現状を解読する」という余計な工程が発生し、意思決定のスピードそのものが落ちていきます。理由の記録は、こうした将来の意思決定コストを先回りして減らす投資でもあります。

判断の理由を書く際は、次の3点を意識してください。

  1. 検討した選択肢: 実際に選んだもの以外に、何を候補として比較したか
  2. 選んだ理由: コスト、機能、既存システムとの連携のしやすさなど、決め手になった要素
  3. 見送った理由(あれば): 他の選択肢を採用しなかった具体的な理由

この3点は、長文で書く必要はありません。「A社とB社のSaaSを比較し、既存の会計システムとの連携実績があるA社を選定。B社はコストは安いが連携実績がなく、初期構築の手間がかかると判断」程度の3〜4行で十分です。重要なのは、後から読んだときに「なぜそうしたか」の筋道が分かることです。

判断の理由を記録する対象は、大きな投資判断だけに限りません。日々の業務の中で下している小さな判断——例えば「このアカウントの権限をどこまで付与するか」「このデータをどの粒度でバックアップするか」といった細かい設定変更も、積み重なると立派な属人化リスクになります。すべてを記録することは現実的ではないため、目安としては「もし説明を求められたら、自分でもすぐには理由を思い出せなそうな判断」を対象に絞るとよいでしょう。逆に、明らかに自明な理由(コストが圧倒的に安いから選んだ、等)は記録の優先度を下げて構いません。

②非定型トラブルの対応内容を記録する

日常的に繰り返し発生するトラブルは手順書化すれば済みますが、めったに起きない非定型のトラブル(サーバーの突発的な不調、特定のベンダーとの連携エラー等)は、発生の都度、対応内容を簡単にメモしておくことをお勧めします。理由は単純で、頻度が低いトラブルほど、次に同じことが起きたときに記憶が薄れているからです。

記録する項目は最低限、次の4つに絞ってください。

  • 何が起きたか(症状)
  • いつ、どのくらいの時間、影響が続いたか
  • 何をして解決したか
  • 再発防止のために何かした場合は、その内容

この4項目をメモ帳やチャットツールの自分専用チャンネルに書き残しておくだけでも、半年後、1年後に同じような症状が起きたときの初動対応が格段に速くなります。特に「何をして解決したか」の記録がないと、毎回同じ調査を一からやり直すことになり、対応時間が無駄に長引きます。

非定型トラブルの記録で意外と価値を発揮するのが、「解決に至らなかった試行錯誤」の記録です。トラブル対応の記録というと「最終的にどう解決したか」だけを書きがちですが、「まずAを試したが効果がなかった、次にBを試したら解決した」という過程を残しておくと、次に似たトラブルが起きたときに、無駄な試行を繰り返さずに済みます。特に原因の特定に時間がかかったトラブルほど、この過程の記録が後々の時短につながります。

また、非定型トラブルの多くは、開発会社やベンダーへの問い合わせを伴います。その際のやり取り(誰に、いつ、何を問い合わせ、どう回答が返ってきたか)も簡単にメモしておくと、同じベンダーへの次回の問い合わせがスムーズになります。特に複数のベンダーと取引がある場合、「このベンダーはこの手のトラブルへの対応が早い/遅い」といった傾向を把握できるようになり、今後の相談先の判断材料にもなります。

③外部との取り決めを記録する

開発会社やベンダーとの間で交わされた合意事項も、記録に残しておくべき重要な対象です。「口頭で確認した」「メールで一往復しただけ」というやり取りは、時間が経つと「言った・言わない」の水掛け論になりやすく、また兼任担当者が異動・退職した場合には、その合意事項の存在自体が失われてしまいます。

記録すべき取り決めの例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 保守契約の対応範囲(何が契約に含まれ、何が追加費用になるか)
  • 障害発生時の連絡フローと、対応にかかる目安の時間(SLA)
  • 契約更新のタイミングと、更新時に確認すべき事項
  • 過去に交渉して特別に認めてもらった条件(通常の契約書には明記されていないが、口頭で合意した内容)

これらは、契約書そのものが手元にあれば重複する部分もありますが、契約書に書かれていない「運用上の口頭合意」こそ記録しておく価値があります。ベンダーとの関係整理については、契約そのものの見直しも含めて別の切り口で扱っている記事がありますので、あわせて参照してください。詳しくはこちら→開発会社・ベンダーとの関係を整理する最初の一歩

外部との取り決めの記録で特に重要なのが、「担当者ベースの口約束」です。ベンダー側の担当者が変わった際に、以前の担当者との間で交わした約束(特別価格、優先対応等)が引き継がれず、なかったことにされてしまうケースは珍しくありません。担当者名、合意した日付、合意内容の3点は最低限セットで記録しておき、担当者交代のタイミングで新担当者にも改めて確認を取ることをお勧めします。口約束は、記録がなければ「なかったこと」と同じ扱いになってしまうという前提で臨むのが安全です。

記録する場所は「増やさない」が鉄則

記録すべき内容が決まったら、次に考えるべきは「どこに記録するか」です。ここでよくある失敗が、記録用のツールを新たに導入してしまうことです。専用のナレッジベースツールやWikiツールを新規導入すると、それ自体の運用ルールを覚える手間、ツールの利用料、そして「また新しいツールが増えた」という社内の混乱が発生し、結局使われなくなるケースが少なくありません。

兼任者が記録を続けるための鉄則は、「すでに日常的に使っているツールの中に記録場所を作る」ことです。具体的には、次のような選択肢があります。

  • 社内で使っているチャットツールに、自分専用の記録チャンネルを作る
  • 使い慣れたドキュメントツール(Word、Googleドキュメント等)に、時系列で追記していく1ファイルを作る
  • 表計算ソフトに、日付・カテゴリ・内容の3列だけのシンプルな記録シートを作る

いずれの方法でも構いませんが、重要なのは「新しいツールを覚える負荷をゼロにする」ことです。使い慣れたツールの延長線上に記録の習慣を作ることで、心理的なハードルを最小限にできます。

場所を1つに決めたら、次に「その場所を後から検索できる状態にする」ことも意識してください。チャットツールのチャンネルに書き溜めるだけでも、日付とキーワードで後から検索できれば十分機能します。反対に、紙のメモ帳やホワイトボードへの記録は、その場では手軽でも、後から特定の情報を探し出すのが難しく、時間が経つほど活用されなくなる傾向があります。デジタルな場所に記録し、検索可能な状態を保つことが、記録を「書いて終わり」にせず「後から使える資産」にする分かれ目です。

記録の型: 埋めるだけで済むテンプレートを先に決める

最低限の3種類の記録対象が決まったら、次は「書くたびに悩まない」ためのテンプレートをあらかじめ用意しておくことをお勧めします。書式を毎回考えるのは地味に時間がかかり、この「考える時間」こそが記録を後回しにする一因になります。次のような簡単なテンプレートを、記録場所の冒頭に貼り付けておくだけでも、記録のハードルは大きく下がります。

判断の理由を記録するテンプレート例

日付:
テーマ(何を決めたか):
検討した選択肢:
選んだ理由:
見送った理由(あれば):

非定型トラブルを記録するテンプレート例

日付:
症状:
影響範囲・継続時間:
対応内容:
再発防止策(あれば):

外部との取り決めを記録するテンプレート例

日付:
相手(会社名・担当者名):
取り決めの内容:
確認方法(メール/口頭/書面):

このテンプレートをコピーして埋めるだけの状態にしておけば、「何を書けばいいか」を考える時間がゼロになり、記録に取りかかるまでの心理的な抵抗が最小限になります。テンプレートの項目数は、多くても5項目程度に抑えることが継続のコツです。項目が増えるほど、1件あたりの記録にかかる時間が伸び、結果的に続かなくなります。

記録を「書く」から「話す」に変える工夫

文章として書くこと自体にハードルを感じる場合は、音声メモやボイスレコーダーのアプリを使い、対応直後に口頭で状況を話して記録するという方法も有効です。話した内容をそのまま音声データとして残すだけでも、後から聞き返して文章化する、あるいは文字起こし機能を使ってテキスト化することができます。

トラブル対応の直後は、頭の中に状況が鮮明に残っている一方、キーボードを打つ気力や時間がない、という状態になりがちです。そのようなときこそ、「1分だけ、起きたことをスマートフォンに向かって話す」という方法が、記録を残す最後の砦として機能します。書くよりもハードルが低く、続けやすいという利点があります。

記録の頻度を「毎日」ではなく「発生の都度」にする理由

記録の習慣化というと、「毎日決まった時間に記録する」という運用を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、兼任情シスにはこの方法はあまり向いていません。本業との兼ね合いで、情シス業務が発生しない日もあれば、トラブル対応に追われる日もあり、「毎日同じ時間に記録する」というルーティンを維持すること自体が、新たな負担になりがちだからです。

代わりにお勧めしたいのは、「何かが起きた・決めた、その都度すぐ記録する」というルールです。判断をした直後、トラブルが解決した直後、ベンダーとの取り決めが成立した直後に、その場で3〜5行のメモを残す。この「即時記録」の習慣さえ身につければ、記録のために別途時間を確保する必要がなくなり、継続しやすくなります。

本業との兼任である以上、「情シスの仕事に集中できる時間」と「本業に追われている時間」は日によって大きく変動します。即時記録のルールは、この変動に強いという利点もあります。本業が忙しい週であっても、トラブル対応や判断そのものは発生するため、その都度3〜5行を残すだけであれば、まとまった時間を別途確保する必要がなく、本業の繁忙期にも影響を受けにくい記録方法だと言えます。

記録は「まとめて書く」ものではなく「その場で残す」ものだと捉え方を変えるだけで、継続率は大きく変わります。人間の記憶は数時間で急速に薄れるため、記録の鮮度が何より重要です。

即時記録を習慣にする際、最初の数回は意識的に「対応が終わったら、次の作業に移る前に必ず記録する」というルールを自分に課すことをお勧めします。習慣化の研究でよく言われるように、新しい行動は既存の行動の直後に紐づけると定着しやすくなります。「トラブル対応が終わったら記録する」という順番を数週間繰り返すうちに、記録が対応の一部として自然に組み込まれていきます。逆に、「時間があるときに記録する」という緩いルールのままでは、時間のある瞬間はなかなか訪れず、記録は先延ばしにされ続けます。

記録が溜まってきたら: 定期的な棚卸しだけは行う

即時記録を続けていくと、記録は時系列でどんどん蓄積されていきます。この蓄積された記録を、体系的に整理し直す必要はありません。ただし、3ヶ月に1回程度、蓄積された記録にざっと目を通し、「重要度が高いのに埋もれている情報がないか」を確認する棚卸しの時間だけは取ることをお勧めします。

棚卸しの際に見つかった重要な情報(繰り返し発生しているトラブル、重要な契約上の取り決め等)は、時系列の記録から切り出し、社内システムの管理台帳や引き継ぎ資料に転記しておくと、後から参照しやすくなります。この転記作業についても、完璧を目指さず、重要度の高いものから数件ずつ進めれば十分です。

棚卸しのタイミングは、決まった予定として先にカレンダーに入れておくことをお勧めします。「時間ができたらやる」という位置づけのままだと、記録と同じく先送りにされ続けます。四半期の頭、あるいは本業の繁忙期が明けた直後など、比較的落ち着いているタイミングを見計らって、30分〜1時間程度の棚卸し時間を確保してください。この時間で全てを整理しきる必要はなく、「重要そうなものに目星をつける」だけでも十分な効果があります。

棚卸しの際にもう一つ確認しておきたいのが、「もう不要になった記録」の存在です。契約が終了したベンダーとの取り決め、廃止されたシステムに関するトラブル対応履歴などは、残しておいても混乱の元になるだけです。すべて削除する必要はありませんが、「これは現在は無効」という注記だけでも添えておくと、後から読んだときに誤った情報に基づいて判断してしまうリスクを防げます。

記録が引き継ぎ資料に育っていくプロセス

日々の即時記録は、それ単体では散らばった断片的な情報にすぎません。しかし、これを3ヶ月に1回の棚卸しで整理していくことで、時間をかけて自然と引き継ぎ資料の土台に育っていきます。最初から完璧な引き継ぎ資料を作ろうとするのではなく、日々の記録を積み重ね、後から必要な部分だけを抜き出して整形する、というプロセスのほうが、兼任者にとって現実的です。

引き継ぎ資料そのものの作り方、何を最小限含めるべきかについては、別の記事で具体的に扱っています。詳しくはこちら→ひとり情シスが有休・退職時に業務を止めないための最小限の引き継ぎ資料

記録を「評価されない仕事」にしないために

記録の習慣が続かないもう一つの理由として、記録作業が社内で評価対象になっていない、という構造的な問題もあります。トラブルを解決したこと自体は評価されても、「それを記録に残したこと」まで評価する会社は多くありません。この場合、記録は「やらなくても誰にも怒られない、後回しにしやすい仕事」になりがちです。

この状況を変える一つの方法は、上長や経営者に対して「記録を残すことが会社全体のリスク低減につながる」という認識を共有し、記録作業自体を正式な業務時間の一部として認めてもらうことです。「トラブル対応の後、5分だけ記録の時間を取っている」という実態を伝え、それが評価上も業務として認識されるようにするだけで、記録を後回しにする心理的なハードルは下がります。

具体的な伝え方としては、「もし自分が急に休んだり退職したりしたときに、この記録があるかないかで、会社が受けるダメージがどれだけ変わるか」を、経営者に想像してもらう切り口が効果的です。記録という行為は地味で、成果が目に見えにくい仕事です。だからこそ、「これは緊急時の保険であり、平時からのリスクマネジメントである」という位置づけを、自分から言葉にして伝える必要があります。黙っていても誰かが評価してくれるものではなく、記録の価値そのものを能動的に説明する姿勢が求められます。

まとめ: 「全部記録する」ではなく「これだけは記録する」を決める

兼任で情シスを担う立場にとって、完璧な記録は目指すべきゴールではありません。目指すべきは、「判断の理由」「非定型トラブルの対応内容」「外部との取り決め」という3種類に絞り込み、それを既存のツールの延長線上で、発生の都度すぐに記録する習慣です。

記録の目的は、几帳面な人間になることではなく、「自分がいなくなっても、次の人が最低限困らない状態」を平時から積み上げておくことです。全てを記録しようとして挫折するよりも、絞り込んだ3種類を確実に記録し続けるほうが、結果的に属人化対策として機能します。今日、何か1つでも判断をした、あるいはトラブルに対応したのであれば、その内容を3行だけでもどこかに書き残すところから始めてください。

記録習慣が定着したかどうかのセルフチェック

最後に、記録の習慣がどの程度定着しているかを、自分自身で確認するためのチェック項目を挙げておきます。定期的に見直す際の目安として活用してください。

  • 直近1ヶ月で下した重要な判断のうち、記録に残っているものが半分以上ある
  • 直近に発生した非定型トラブルについて、対応内容を数行でも書き残している
  • ベンダーとの口頭での取り決めを、後から確認できる形で残している
  • 記録する場所が1箇所に決まっており、迷わず書き込める状態になっている
  • 3ヶ月以内に、蓄積した記録を見返す機会があった

5項目のうち3つ以上に当てはまっていれば、記録習慣は一定程度定着していると言えます。2つ以下の場合は、まず記録対象を1種類だけに絞り、「判断の理由だけは必ず書く」というように範囲をさらに小さくして再スタートすることをお勧めします。習慣化は、範囲を広げるより先に、小さく始めて確実に続けることを優先したほうが、結果的に長続きします。

記録の習慣は、一度定着すればそれ以降の負担はむしろ小さくなっていきます。最初の数ヶ月は「書くこと自体に慣れる」段階で多少の意識的な努力が必要ですが、テンプレートに沿って埋めるだけの作業になった後は、対応の一部として自然に組み込まれ、負担感はほとんどなくなります。逆に言えば、最初の1〜2ヶ月をどう乗り切るかが、記録習慣が定着するかどうかの分かれ目です。この期間だけは、多少意識的に「対応が終わったら記録する」を自分に課してみてください。習慣が身についたかどうかを判断するタイミングとして、四半期ごとの棚卸しの回とあわせてこのセルフチェックを見直すと、無理なく定点観測ができます。自社の属人化リスクを総合的に把握したい場合は、ひとり情シス危険度診断もあわせて活用してください。