「経理担当が、請求書の督促メールの文面をChatGPTに考えさせている。その際、取引先の会社名と未払い金額をそのまま貼り付けていた」——このような事後発覚は、10-30人規模の会社では珍しくありません。総務・経理は日常的に顧客情報・取引先情報・金額といった機密性の高いデータを扱う部署であり、業務効率化のためにAIを使い始めた結果、意図せず情報を外部サービスに送信してしまっているケースが起きやすい領域です。
この記事は、すでに生成AIの利用が広がってしまった10-30人規模の会社が、総務・経理を中心とした部署別に、機密情報の入力実態を事後的に調査し、リスクを洗い出して対応するための具体的な手順を解説します。「入力してはいけない情報をどう線引きするか」というルール設計自体は姉妹コラムで扱っていますので、本記事ではすでに入力してしまっている可能性がある状態から、どう調査し、どう対応するかという監査・確認の実務に絞って掘り下げます。
この記事で分かること
- なぜ総務・経理部門で機密情報の入力事故が起きやすいのか
- 部署別に入力実態を確認するための質問項目とヒアリングの進め方
- 「すでに入力してしまった」ケースが見つかった場合の対応フロー
- 部署の業務内容ごとに変わる、確認すべき情報の具体例
- 定期的な監査を無理なく続けるための仕組み化
- 総務・経理以外の部署にも横展開する際の考え方
なぜ総務・経理で入力事故が起きやすいのか
生成AIの業務利用が広がる中で、総務・経理部門は特に機密情報の入力リスクが高い部署です。理由はいくつかあります。
第一に、業務内容そのものが機密情報を扱う前提で成り立っています。請求書・領収書・給与明細・取引先との契約内容など、日常的に扱う情報のほとんどが、社外に出せない性質のものです。他の部署であれば「一般的な文章作成」で済む場面でも、総務・経理では必然的に固有名詞や金額を含む文脈になりやすい構造があります。
第二に、定型文の作成業務が多いことも、AI利用が広がりやすい要因です。督促メール、支払い通知、経費精算のリマインドなど、似たパターンの文章を繰り返し作成する業務は、生成AIとの相性がよく、効率化の効果を実感しやすいため、他の部署よりも早い段階で使い始める傾向があります。
第三に、総務・経理担当者自身がITやセキュリティの専門知識を持っているとは限らない点も見逃せません。10-30人規模の会社では、総務担当者がIT管理も兼任しているケースが多く、「効率化には積極的だが、AIサービスの裏側でどう情報が扱われるかまでは詳しくない」という状態で利用が進みがちです。
総務・経理は「機密情報を扱う頻度が高い」「定型業務が多くAIとの相性がよい」「IT専門知識との兼任負担が重い」という3つの要因が重なりやすく、他部署よりも優先的に実態確認すべき部署だと言えます。
部署別に確認すべき質問項目
実態調査を始める前に、総務・経理を中心とした部署ごとに、確認すべき質問項目を整理しておきます。抽象的に「機密情報を入力していないか」と聞くだけでは、担当者自身が「何が機密情報にあたるか」を判断できず、正確な回答が得られません。具体的な業務内容に即した聞き方をすることが重要です。
| 部署 | 確認すべき質問 |
|---|---|
| 経理 | 「請求書・領収書の文面作成にAIを使ったことがあるか。その際、取引先名や金額をそのまま入力したか」「給与計算や年末調整に関する相談をAIにしたことがあるか」 |
| 総務 | 「就業規則や社内規程の文面作成にAIを使ったことがあるか」「採用選考に関わる応募者情報をAIに入力したことがあるか」 |
| 人事 | 「社員の評価コメントや人事考課の下書きにAIを使ったことがあるか。その際、社員の氏名や個人的な評価内容を含んでいたか」 |
| 営業事務 | 「見積書・請求書の文面作成にAIを使ったことがあるか。取引先名や金額を含めて入力したか」 |
この質問項目は、単に「Yes/No」で終わらせず、「どのサービスに」「どんな情報を」「いつ頃から」入力していたかまで具体的に聞き出すことが重要です。曖昧な回答で終わらせてしまうと、後述する対応フローに進む際の判断材料が不足してしまいます。
ヒアリングの進め方: 免責を先に示す
前述の質問項目を使ってヒアリングを行う際、最も重要なのは「今回の調査は処分を目的としたものではない」という免責を、質問の前に明確に伝えることです。特に総務・経理担当者は「機密情報を扱う責任者」という自覚があるため、うっかり入力してしまった事実を正直に話すことへの心理的抵抗が、他部署よりも強く出る傾向があります。
ヒアリングの進め方の一例です。
- 調査の目的を最初に説明する: 「AI利用ルールを整備するにあたり、まず実態を正確に把握したい。今回の回答内容で処分や評価に影響することはない」と明確に伝える
- 具体的な業務内容から聞く: 「日常的にどんな業務でAIを使っているか」という前向きな質問から入り、徐々に「その際、どんな情報を入力しているか」に踏み込む
- 入力した情報の具体例を一緒に確認する: 「取引先名」「金額」など抽象的な表現ではなく、「実際にどんな文面を入力したか、覚えている範囲で教えてほしい」と、できるだけ具体的な記憶を引き出す
- 感謝を伝えて終える: 正直に話してくれたことへの感謝を示し、「教えてくれたことで、今後同じことが起きないような仕組みを作れる」という前向きな締めくくりにする
「処分しないと言われても、正直に話して大丈夫か不安だった」という声は、実際のヒアリングでよく聞かれます。一度でも密告的な対応を取ってしまうと、次回以降の調査で正直な回答が得られなくなるため、免責の一貫性を保つことが、継続的な実態把握の土台になります。
ヒアリング以外で実態を補完する方法
ヒアリングは実態把握の基本ですが、担当者自身が「これは機密情報にあたる」と自覚していない場合、正直に答えているつもりでも重要な情報が漏れてしまうことがあります。ヒアリングだけに頼らず、次のような方法で補完的に実態を確認することも有効です。
- 業務システムのアクセスログを確認する: すでにSaaS管理ツールやセキュリティ製品を導入している場合、生成AIサービスへのアクセス履歴が記録されていることがあります。専用のツールがなくても、社用パソコンのブラウザ履歴を確認することで、どのAIサービスにどの程度の頻度でアクセスしているかの傾向がつかめる場合があります
- 経費精算・請求書の履歴を確認する: 部署や個人が独自に有料プランを契約している場合、経費精算の履歴に痕跡が残っています。総務・経理部門であれば、この確認は自部署の業務データを見返すだけで済むため、着手しやすい方法です
- 実際に作成された文書の文体を確認する: AIが生成した文章には、独特の言い回しや構成のパターンが見られることがあります。督促メールや報告書の文体が急に変わったと感じた場合、それとなく確認してみることも一つのきっかけになります
これらの方法は、ヒアリングで得られた回答を裏付けたり、ヒアリングで拾いきれなかった実態を補ったりする目的で使うものであり、社員を監視するための手段として使うべきではありません。あくまで「実態を正確に把握し、リスクを減らす」という目的の範囲で活用してください。
匿名アンケートを併用する
ヒアリングだけでは、対面や個別の聞き取りに対する心理的なハードルから、正直な回答を得にくい場合があります。特に総務・経理部門は、機密情報を扱う責任者としての自覚が強い分、「うっかり入力してしまった」という事実を対面で認めることへの抵抗感が大きくなりがちです。
この場合、記名式のヒアリングと並行して、匿名で回答できる簡単なアンケートを併用することをお勧めします。「過去に生成AIへ入力した内容で、今振り返ると不安に感じるものはあるか」という聞き方であれば、個人を特定されない安心感から、より率直な回答が集まりやすくなります。匿名アンケートで浮かび上がった傾向をもとに、必要であれば個別のフォローアップヒアリングを行うという二段構えの調査設計も有効です。
「すでに入力してしまった」ケースへの対応フロー
ヒアリングの結果、すでに機密情報を生成AIに入力してしまっていたケースが見つかった場合、次のフローで対応を進めます。
- 入力した情報の種類と量を特定する: 個人情報(氏名・連絡先)なのか、取引条件(金額・契約内容)なのか、それとも一般的な社名程度に留まるのか、影響範囲を見極める
- 利用していたサービスの学習利用設定を確認する: 学習オプトアウトが設定されていたか、無料版のまま初期設定だったかを確認する。法人プラン契約済みで標準的にオプトアウトされている場合、リスクの度合いは相対的に低くなる
- 必要に応じてサービス提供元への削除依頼を検討する: サービスによっては、入力履歴の削除をユーザー自身が申請できる機能や窓口が用意されている場合がある。個人情報を含む重大なケースでは、この対応を検討する
- 影響範囲によっては、経営層・関係部署への報告を行う: 顧客の個人情報や、契約上守秘義務のある情報が含まれていた場合、社内での対応に留めず、上長や場合によっては顧客への説明が必要になることもある。判断に迷う場合は、弁護士など専門家への相談も選択肢に入れる
- 再発防止策を該当部署に周知する: 同じ入力が繰り返されないよう、具体的にどの情報が問題だったかを共有し、今後の入力ルールに反映する
この対応フローで最も重要なのは、ステップ1と2で「どの程度深刻な状況か」を落ち着いて見極めることです。すべてのケースが重大な情報漏えいというわけではなく、一般的な文章表現の相談程度であれば、今後の入力ルールを周知するだけで十分な場合もあります。過剰に反応してしまうと、次回以降のヒアリングで正直な申告を得にくくなるため、影響範囲に応じた冷静な対応が求められます。
影響範囲を判断する目安
「深刻さをどう判断すればよいか分からない」という声もよく聞かれます。目安として、次のような分類で考えると判断しやすくなります。
| 分類 | 具体例 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 重大 | 顧客の個人情報(氏名・連絡先・購入履歴)、契約書の具体的な条項、未公表の財務情報 | 影響範囲の特定、削除依頼の検討、上長への報告を必須で行う |
| 中程度 | 取引先名のみ(金額や契約内容を伴わない)、社内向け資料の抜粋 | 今後の入力ルールを周知し、再発防止を徹底する |
| 軽微 | 一般的な業界の慣習に関する質問、社名を伏せた抽象的な相談 | 特別な対応は不要。参考事例として社内で共有する程度でよい |
この分類はあくまで目安であり、業種によって「何が重大にあたるか」は変わります。例えば、士業や医療関連の業務を扱う会社であれば、一般的な会社よりも厳しい基準で「重大」を判断する必要があります。自社の業種特性に照らして、この分類表をカスタマイズして使うことをお勧めします。
定期的な監査として仕組み化する
一度きりの実態調査で終わらせず、継続的に確認する仕組みを作っておくことで、新たな入力事故を早期に発見できます。10-30人規模の会社で、専任の監査担当者を置く余裕がない場合でも、次のような軽量な仕組みで十分機能します。
- 四半期に一度、簡単なアンケートを総務・経理に配布する: 「この3ヶ月で新しく使い始めたAIサービスはあるか」「入力した情報で気になっているものはあるか」を聞く程度で十分
- 経費精算のタイミングで、新しいAIサービスの契約がないか確認する: 有料プランへの新規契約は経費として計上されるため、経理部門自身がチェックポイントになる
- 入社時・異動時のオリエンテーションに、入力ルールの説明を組み込む: 特に総務・経理に新しく配属された社員には、着任時に必ず入力してはいけない情報の具体例を伝える
この定期的な確認は、IT資産管理の一環として、既存の資産棚卸しの仕組みに組み込むと、新たな業務負担を最小限に抑えられます。既存の棚卸し業務(パソコンやソフトウェアライセンスの確認)に、生成AIサービスの利用状況確認という項目を1つ追加するだけであれば、担当者の負担増は最小限に抑えられます。年次の棚卸しに加えて、前述の四半期アンケートを組み合わせることで、変化の早い生成AI領域にも対応できる確認頻度を確保できます。
経理特有の論点: 会計・税務データの扱い
経理部門は、他部署にはない固有の論点も抱えています。会計ソフトからエクスポートしたデータや、税務申告に関わる情報を生成AIに入力してしまうケースは、金額の桁数が大きく、影響範囲も広くなりやすいため、特に注意が必要です。
- 仕訳データの一括処理を目的とした入力: 「この仕訳データを整理して」と会計データをそのままAIに貼り付けてしまうケースがあります。取引先名と金額がセットで含まれるため、前述の分類では「重大」に該当しやすい典型例です
- 税務相談への利用: 「この経費は損金算入できるか」といった税務判断をAIに相談する際、具体的な取引の詳細(相手先・金額・時期)を含めて入力してしまうことがあります。一般的な税務知識の確認であれば大きな問題にはなりにくいですが、個別具体的な取引内容を含む場合は注意が必要です
- 給与計算に関する相談: 「この社員の給与を計算して」と、社員の氏名や給与額を含めて入力してしまうケースは、個人情報保護の観点からも重大度が高くなります
経理部門でのヒアリングでは、一般的な機密情報の確認項目に加えて、これらの経理特有の論点を意識した質問を追加することをお勧めします。「仕訳データや会計ソフトからエクスポートした情報をAIに入力したことがあるか」「税務相談の際に具体的な取引先名や金額を含めていたか」という聞き方であれば、経理担当者自身も具体的な記憶を思い出しやすくなります。会計ソフト自体にAI機能が組み込まれている製品も増えていますが、その場合はソフト提供元との契約内で情報が処理されるため、汎用の生成AIサービスに手動でコピー&ペーストする場合とはリスクの性質が異なります。ヒアリングの際は、どちらの経路で入力していたのかを区別して確認してください。
総務特有の論点: 人事・労務情報の扱い
総務部門(人事・労務を兼任している場合)では、社員本人の個人情報や評価情報を扱う機会が多く、経理とは異なる種類の注意が必要です。
- 採用選考における応募者情報: 履歴書・職務経歴書の内容を要約・整理する目的でAIに入力してしまうケースがあります。応募者の氏名・経歴・連絡先はいずれも個人情報にあたるため、入力前に匿名化する、あるいは入力自体を避けるという判断が求められます
- 人事考課・評価コメントの下書き: 「この社員の評価コメントを書いて」と、社員名や具体的な業務内容を含めて入力してしまうケースです。評価という機微な情報を含むため、実名を伏せた一般的な文章表現の相談に留めることが望ましいです
- 就業規則・社内規程の文面作成: これ自体は機密性の低い作業に見えますが、自社独自の給与体系や手当の詳細な数値を含めて相談してしまうと、意図せず社内情報が外部に送信されることになります
総務部門へのヒアリングでは、「採用・評価・給与に関わる相談でAIを使ったことがあるか」を明確に聞くことで、経理とは異なる角度からのリスクを洗い出せます。
総務・経理以外の部署への横展開
本記事では総務・経理を中心に解説しましたが、機密情報を扱う部署は業種によって異なります。総務・経理での調査が一段落したら、同様の手順を他部署にも横展開することをお勧めします。
- 営業部門: 顧客リスト、見積金額、商談内容の記録
- 人事部門: 採用応募者の個人情報、社員の評価データ
- 製造・設計部門: 図面データ、製造工程の独自ノウハウ、取引先ごとの単価
- 法務・契約担当: 契約書の具体的な条項、係争中の案件情報
部署が複数にまたがる横断的な実態把握の進め方については、部署ごとに勝手にChatGPTを使い始めた30人規模の会社がやることで詳しく扱っていますので、あわせて参照してください。
調査結果を経営層へ報告する際のポイント
実態調査の結果は、担当者だけで抱え込まず、経営層へ報告することが望ましいです。特に「重大」に分類されるケースが見つかった場合は、報告を先送りにせず、早い段階で共有してください。報告の際は、次の3点をセットで伝えると、経営層の理解を得やすくなります。
- 調査で分かった事実: 憶測を交えず、ヒアリングやログ確認で把握できた範囲の事実を正確に伝える
- リスクの度合い: 前述の「重大・中程度・軽微」の分類を用いて、どの程度深刻な状況かを客観的に説明する
- 今後の対応方針: 削除依頼の要否、再発防止策の内容、今後の監査サイクルの提案をセットで示す
経営層への報告は、担当者にとって心理的なハードルが高い場面でもあります。「自分の管理が甘かったのではないか」と委縮してしまう担当者も少なくありませんが、この調査自体が「実態を可視化し、リスクを減らすための前向きな取り組み」であることを、報告の冒頭で明確にしておくと、建設的な議論に進みやすくなります。
中小企業診断士・社労士など外部専門家への相談基準
調査の結果、個人情報保護法や労働関連法規に関わる可能性がある重大なケースが見つかった場合、社内だけで判断せず、外部の専門家に相談することも選択肢に入れてください。相談を検討すべき目安は次の通りです。
- 顧客や取引先の個人情報が、本人の同意なく外部サービスに送信されていた可能性がある場合(個人情報保護法の観点から弁護士・専門家への相談を検討)
- 社員の評価・給与情報など、労務管理に関わる機微な情報が含まれていた場合(社会保険労務士への相談を検討)
- 契約上、第三者への情報開示が制限されている取引先の情報が含まれていた場合(契約書の確認とあわせて弁護士への相談を検討)
10-30人規模の会社では、顧問弁護士や顧問社労士がすでにいる場合もあれば、まだ契約していない場合もあります。契約していない場合でも、多くの弁護士事務所・社労士事務所はスポット相談を受け付けているため、重大なケースが見つかった際は、継続的な顧問契約の有無にかかわらず、一度相談することをお勧めします。相談費用を惜しんで自己判断のまま放置すると、後になって対応コストが膨らむ可能性があるため、早期の相談が結果的にコストを抑えることにもつながります。
よくある失敗: 一度調査して満足してしまう
実態調査を一度行い、問題が見つからなかった、あるいは軽微な問題だけだったという結果を得ると、「もう大丈夫」と考えて調査自体をやめてしまう会社があります。しかし、生成AIサービス自体が次々と新しいものに更新される分野であり、社員が新しいサービスを試し始めるたびに、同様のリスクが再発する可能性があります。
「半年前に調査したときは問題なかったのに、その後新しく入った社員が別のAIサービスを使い始めていた」
このような再発は、一度の調査で終わらせてしまった会社でよく見られるパターンです。前述の「定期的な監査として仕組み化する」で示した軽量な確認を、最低でも四半期に一度は継続することが、実効性のあるリスク管理につながります。
次のステップ
入力実態の確認と対応フローが整理できたら、次はその内容を踏まえて社内ルールを1枚にまとめる段階に進みます。専任担当者がいない前提での作り方は情シス不在でも作れる最低限の生成AI利用ルール1枚で解説しています。
また、まだ部署横断での実態把握ができていない場合は、部署ごとに勝手にChatGPTを使い始めた30人規模の会社がやることを先にご覧ください。入力ルールの詳細な線引きの考え方は、コラム機密情報をAIに入れないための社内ルール設計にまとめています。守りを固めた後の前向きな活用の進め方は30人規模の会社がAIで最初に効果を出しやすい業務の選び方で扱っています。自社の状況を客観的に把握したい場合はひとり情シス危険度診断もあわせてご活用ください。
まとめ: 「聞かなければ分からない」を前提に確認する
総務・経理は機密情報を扱う頻度が高く、生成AIによる効率化の恩恵を実感しやすい一方、入力事故のリスクも他部署より高い部署です。すでに利用が広がってしまっている10-30人規模の会社では、抽象的な注意喚起だけでなく、部署の業務内容に即した具体的な質問で実態を確認し、見つかった問題には落ち着いて段階的に対応することが重要です。
一度の調査で終わらせず、四半期に一度程度の軽量な確認を継続することで、新しいAIサービスの登場や社員の入れ替わりによる再発を防げます。「聞かなければ分からない」という前提に立ち、免責を明示した対話を重ねることが、事後対応であっても実効性のあるリスク管理につながります。
調査を担当する立場の心構え
最後に、この調査を担当する総務担当者や経営者自身の心構えについても触れておきます。部署別の入力実態を調査する立場は、社内で「取り締まる側」という受け止められ方をされやすく、担当者自身が精神的な負担を感じることもあります。
しかし、この調査の本質は、社員を疑って摘発することではなく、会社として把握できていなかったリスクを可視化し、安心して生成AIを活用し続けられる環境を整えることにあります。調査を進める中で見つかった問題は、個人の落ち度としてではなく、「会社としてルールや周知が追いついていなかった結果」として捉える姿勢を、担当者自身が持ち続けることが、継続的な調査を無理なく続けるための土台になります。
また、調査を一人で抱え込みすぎないことも重要です。部署責任者や、必要に応じて外部の専門家の力を借りながら進めることで、総務担当者や経営者自身の負担を分散させ、兼任体制でも持続可能な運用を実現できます。すでに広がってしまった利用実態への対応は、後手に回ったことを悔やむ作業ではなく、これから先の事故を減らすための前向きな棚卸しだと捉えて、無理のないペースで進めてください。

