営業部が案件管理のためにAirtableを契約し、製造部が現場の報告用にkintoneを契約し、総務部が備品管理のためにMicrosoft Listsを使い始めている――こうした状況に、経営者や総務担当者が「うちは一体いくつのツールを契約しているのか」と、ふと不安になる場面があります。これは、ノーコード・ローコードツールの普及によって、10-30人規模の会社で急速に増えている現象です。

ノーコード・ローコードは、専門的なプログラミング知識がなくても、現場の担当者自身が業務システムを組み立てられる手軽さが最大の魅力です。しかし、その手軽さは裏を返せば、情シス担当や総務の目が届かないところで、契約と解約が個別に進んでしまうというリスクでもあります。気づいたときには、会社として何のツールにいくら払っているのか、誰も正確に把握していない状態になっていることが少なくありません。

このガイドは、部署ごとに個別契約されたノーコードツールを、総務・経営者が全体像として棚卸しするための具体的な手順を解説します。

この記事で分かること

30人規模で部署が複数存在する会社が、各部署が個別に契約したノーコード・ローコードツールを洗い出し、重複や無駄な契約を発見するための棚卸し手順を扱います。ノーコードツールをどう選ぶか、どこまでExcelの代替になるかという選定論はノーコードツールでExcel業務を置き換える選択肢比較に譲り、本記事は「すでに個別契約されているものを、どう洗い出し・整理するか」という棚卸しの実務に焦点を当てます。

なぜノーコードツールは特に「見えにくい」のか

社内システムの契約状況が把握しづらくなる現象自体は、ノーコードツールに限った話ではありません。しかし、ノーコードツールには、他の種類のIT契約と比べて、いくつか特有の「見えにくさ」があります。

  • 導入のハードルが低い: クレジットカード1枚とメールアドレスがあれば、現場の担当者個人の判断でその日のうちに契約が完了してしまう。稟議や情シスの承認を経ずに導入できてしまうケースが多い
  • 無料プランから始まりやすい: 多くのノーコードツールは無料プランやトライアル期間を用意しており、「とりあえず無料で試してみよう」というきっかけで導入され、いつの間にか有料プランに移行していることに気づかれにくい
  • 費用が部署の経費に埋もれる: クレジットカードの明細やコーポレートカードの利用履歴に「◯◯ Inc.」のような社名で記載され、経理担当者が見ても何のツールか分からないまま処理されてしまう
  • 「情シスに聞かずに始められる」ことが売りになっている: ツール提供側も「現場主導で始められる」ことをマーケティング上のメリットとして訴求しているため、構造的に情シス・総務を経由しない導入が増えやすい

この「見えにくさ」の結果として起きるのが、いわゆるシャドーITの状態です。会社として契約していることは事実なのに、管理部門がその実態を把握できていない――この状態を解消する最初の一歩が、棚卸しです。

棚卸しの前に: なぜ今、棚卸しが必要なのか

棚卸し作業に着手する前に、なぜこの作業が必要なのかを社内で共有しておくことをお勧めします。単に「管理のため」というだけでは、現場の協力を得にくいことがあります。次のような具体的な理由を挙げると、現場も納得しやすくなります。

  • コストの重複を防ぐ: 複数の部署が、実は似た機能を持つツールをそれぞれ別々に契約している場合がある。統合すれば1つの契約で済むケースは珍しくない
  • セキュリティリスクを下げる: 契約しているツールの数だけ、顧客情報や社内情報が外部のクラウドサービスに保存されている状態になる。管理部門が把握していないツールほど、退職者のアカウント削除漏れなどのセキュリティホールになりやすい
  • 担当者の異動・退職に備える: 契約したツールの管理者IDやパスワードが、契約した本人しか知らない状態になっていると、その担当者が異動・退職した際に、誰もツールにログインできなくなる事態が起こり得る
  • 法人としての契約管理責任を果たす: 会社名義・法人カードで契約している以上、その利用状況を会社として把握することは、内部統制上も望ましい

ステップ1: 洗い出しの入口を複数用意する

棚卸しでまず難しいのが、「そもそも何を契約しているか分からない」という出発点です。この壁を突破するには、単一の方法に頼らず、複数の切り口から情報を集めることが効果的です。

切り口具体的な確認方法
クレジットカード・法人カードの明細過去6〜12ヶ月分の明細を確認し、聞き慣れない海外送金先・サブスクリプション名を洗い出す
経理の支払い記録月次で発生している少額の外部送金・振込がないか確認する
メールの検索各部署の代表メールアドレス、または個人メールで「ご契約ありがとうございます」「お支払い明細」といったキーワードで過去のメールを検索する
各部署への直接ヒアリング部署ごとの責任者に「業務で使っているクラウドサービス・アプリを教えてください」と直接尋ねる
ブラウザのブックマーク・ログイン履歴業務用PCのブラウザに保存されているブックマークや、パスワード管理機能に登録されたサイト一覧を確認する(本人の同意を得た上で実施する)

これらの切り口を複数組み合わせることで、単一の方法では見つからなかったツールが浮かび上がってきます。特にクレジットカード明細の確認は、担当者自身も「契約したことを忘れていた」というツールを発見するきっかけになることが多く、最も効果的な入口の一つです。

ステップ2: 棚卸し表に記録する項目を決める

洗い出した情報は、後から見返して活用できるよう、統一されたフォーマットの一覧表にまとめます。記録すべき項目は、最低限次の通りです。

  • ツール名: サービスの正式名称
  • 契約部署・利用部署: 契約した部署と、実際に日常的に使っている部署(異なる場合がある)
  • 契約者・管理者: 実際にアカウントの管理者権限を持っている担当者名
  • 月額・年額費用: 分かる範囲でのおおよその費用
  • 契約形態: 無料プランか有料プランか、年間契約か月次契約か
  • 主な用途: 何の業務のために使っているか(案件管理、備品管理、報告書作成など)
  • 導入時期: いつから使い始めたか(分かる範囲で)
  • 重複の可能性: 他に似た用途のツールがないか

このシステム管理台帳(システム管理台帳)としてまとめておくことで、棚卸しは一度きりの作業で終わらず、以降の継続的な管理の土台にもなります。台帳の考え方そのものについては、既存のテンプレートも参考にしてください。

ステップ3: 重複・類似ツールを見つける

一覧表が完成したら、次は「主な用途」の列を横断的に見比べ、機能が重複しているツールがないかを確認します。

例えば、次のような重複はよく見つかります。

  1. 営業部がAirtableで案件管理をしている一方、経理部がkintoneで請求案件を管理している。どちらも「案件の進捗を一覧で見る」という点では同じ機能を求めている
  2. 複数部署がそれぞれ別のフォーム作成ツール(Googleフォーム、Microsoft Forms、Typeformなど)を契約し、社内アンケートや申請フォームに使っている
  3. タスク管理ツール(Trello、Asana、Notionなど)を部署ごとに別々に契約し、部署をまたぐプロジェクトでは結局チャットとメールで進捗共有をしている

重複が見つかった場合、必ずしもすぐに1つに統合する必要はありませんが、少なくとも「なぜ2つのツールが並存しているのか」を関係者に確認し、統合すべきか、それぞれ役割が違うため維持すべきかを判断する材料にはなります。

棚卸しを実際にやってみた会社からよく聞かれる感想は、「想像していたよりずっと多くのツールが見つかった」というものです。10-30人規模の会社でも、契約中のクラウドサービスが10個を超えていたというケースは珍しくありません。数の多さに驚くこと自体が、棚卸しの意義を実感する最初の機会になります。

ステップ4: 「使われていないツール」を見極める

棚卸しのもう一つの重要な目的は、契約したまま実際にはほとんど使われていないツールを見つけることです。無料トライアルから有料プランに自動移行し、そのまま誰も使わなくなったツールの支払いだけが続いている、というケースは決して珍しくありません。

使われていないかどうかを判断する目安としては、次のような観点が参考になります。

  • 直近1〜2ヶ月のログイン履歴・アクセスログがあるか(ツールの管理画面で確認できることが多い)
  • そのツールを契約した担当者が、まだ在籍・在籍中の部署にいるか
  • 同じ業務を、実際には別のツールやExcelで代替してしまっていないか

使われていないツールが見つかった場合、解約するかどうかを判断する前に、そのツールに蓄積されたデータを確認し、必要であればCSV形式などで書き出しておく作業が必要です。この点を怠ると、後から「あのツールに大事なデータが残っていた」と気づいても手遅れになることがあります。データを保持したまま安全に解約する手順はSaaS解約が決まった後、必要なデータを漏れなく取り出し、安全に保管し、解約手続きを完了させるまでの実務手順で詳しく解説しています。

棚卸し後: どう運用ルールに落とし込むか

棚卸しは一度やって終わりではなく、その後の運用ルールに反映させて初めて意味を持ちます。棚卸しの結果をもとに、次のようなルールを整備することをお勧めします。

  • 新規契約時の申請フロー: 現場が新しいツールを契約したい場合、事前に総務・情シスへ一報を入れるルールを設ける。すべてを事前承認制にすると現場のスピード感を損なうため、「契約後1週間以内に台帳へ登録する」程度の軽いルールから始めるのも現実的です
  • 定期棚卸しのサイクル: 半年に1回、あるいは四半期に1回程度、台帳の内容を見直すタイミングを設ける
  • 管理者IDの共有ルール: 契約者個人のメールアドレスではなく、部署の共有メールアドレスや、複数名がアクセスできる管理体制でアカウントを作成するルールを設ける

この運用ルールがあることで、次に組織が拡大したときにも、同じような「気づいたら把握できていないツールが増えていた」という事態を防ぎやすくなります。管理部門の許可なく現場が独自に導入したツールが見つかった場合の対応については、「誰かが個人契約したツール」が業務の中心になっていた。見つけたらどうするもあわせて確認しておくとよいでしょう。

棚卸しは「監視」ではなく「守るため」だと伝える

棚卸しを進める際に注意したいのは、現場に「勝手に契約したことを咎められるのでは」という警戒心を持たれないようにすることです。棚卸しの目的は、現場の判断を否定することではなく、会社としてリスクを管理し、無駄なコストを減らし、担当者の異動・退職があっても業務が止まらないようにすることにあります。

この目的を丁寧に説明した上で協力を仰ぐと、現場からの情報提供もスムーズになります。逆に「勝手に契約したものを報告させる」という監視的な姿勢で進めると、正直な情報が集まりにくくなり、棚卸しの精度そのものが下がってしまいます。

ノーコードツール特有の「解約しにくさ」にも注意する

ノーコードツールの棚卸しを進める中で、しばしば直面するのが「使われていないと分かっても、簡単には解約できない」という壁です。これは、他の一般的なSaaS契約と比べても、ノーコードツールに特有の事情があります。

  • 業務ロジックがツールの中に組み込まれている: ノーコードツールの魅力は、現場担当者が自由に業務フローや自動化のルールを組み立てられる点にありますが、その分、ツールを解約すると、組み立てられた業務ロジックそのものが失われてしまいます。単なるデータの保存先ではなく、「仕組み」そのものがツール内に閉じ込められている点が、通常のSaaS以上に解約のハードルを上げます
  • 属人化した設定になっている: ノーコードツールは、契約者本人が試行錯誤しながら組み立てていることが多く、その設定の意図や構造を、契約者以外の人が理解できないまま運用されているケースが少なくありません。契約者が異動・退職すると、誰もその中身を触れなくなり、「よく分からないが動いているので、解約するのも怖い」という状態に陥りがちです
  • 他のツールとの連携が組まれている: ノーコードツールは、他のクラウドサービスと連携(自動でデータを受け渡すなど)するケースが多く、1つのツールを止めることが、思わぬ形で別の業務に影響を及ぼすことがあります

こうした事情から、ノーコードツールの棚卸しでは、単に「使われているか、いないか」だけでなく、そのツールが止まった場合に、どの業務にどう影響するかという視点も併せて確認しておく必要があります。連携している他ツールの有無、業務ロジックの複雑さは、棚卸し表の追加項目として記録しておくことをお勧めします。

ノーコードツールの契約形態別の注意点

ノーコードツールと一口に言っても、契約形態によって棚卸し時に注意すべき点が異なります。

契約形態棚卸し時の注意点
ユーザー数課金型(kintone、Airtableなど)実際に使っているユーザー数と、契約しているライセンス数にズレがないか確認する。退職者のアカウントが残ったまま課金され続けているケースが多い
フラットレート型(月額固定でユーザー数無制限のプランなど)契約時の想定ユーザー数と、現在の利用実態にギャップがないか、上位・下位プランへの変更でコストを最適化できないか確認する
従量課金型(実行回数・レコード数に応じた課金)想定外の利用増加で、契約時の見込みより費用が膨らんでいないか、経理の支払い記録と突き合わせて確認する
無料プラン継続中無料プランのまま運用しているように見えて、実は一部機能だけ有料アドオンを追加している場合があるため、明細を丁寧に確認する

この契約形態の違いを踏まえて棚卸しを行うと、単に「使っているか、いないか」だけでなく、「今の契約プランが実態に見合っているか」という、コスト最適化の視点も同時に得られます。

棚卸しをきっかけに全社共通のルールを整備する好機と捉える

各部署が個別にノーコードツールを契約する状態そのものは、必ずしも全面的に禁止すべきものではありません。現場が自分たちの業務に合わせて素早くツールを試せることは、組織の機動力という意味では利点でもあります。重要なのは、「自由に試せる」ことと「会社として実態を把握できている」ことを両立させることです。

棚卸しを一度実施すると、多くの会社は「もっと早くからルールを整えておけばよかった」と感じます。この気づきを活かし、棚卸しをきっかけに、次のような全社共通の指針を整備しておくと、今後同じような棚卸し作業を繰り返さずに済みます。

  • 新しいツールを試す際は、無料プランであっても総務・情シスに一報を入れる文化を作る
  • 有料プランへの移行を判断する権限者を明確にする(現場の一存で高額プランに移行しない)
  • 退職・異動が決まった時点で、その人が管理しているツールのアカウントを引き継ぐフローを、退職・異動手続きの中に組み込む

これらのルールは、一度に完璧なものを作ろうとせず、棚卸しで見えてきた実際のトラブル事例をもとに、少しずつ具体化していくのが現実的です。

棚卸しの結果、Excelとの使い分けをどう整理するか

ノーコードツールの棚卸しを進めていくと、「このツールは本当にノーコードツールでなければならないのか、Excelのままでよかったのではないか」という疑問に突き当たる場面が出てきます。実際、棚卸しの過程で、当初期待していたほど活用されておらず、実質的にExcelの延長のような使い方に留まっているツールが見つかることは珍しくありません。

この見極めには、次のような視点が参考になります。

  • 複数人での同時編集・リアルタイム共有が必須の業務か: 必須であれば、ノーコードツールを維持する価値は高いと言えます。個人利用に近い場合は、Excelに戻すという選択肢も現実的です
  • 承認フローや通知など、Excelでは実現できない機能を実際に使っているか: 契約時にはその機能に魅力を感じて導入したものの、実際にはほとんど使われていない、というケースはよく見られます
  • 月額費用に見合う効果を得られているか: 費用対効果を定量的に示すのは難しいものの、少なくとも「その費用を払い続ける理由を、現場の担当者が説明できるか」を確認する価値はあります

棚卸しは、単にツールの契約状況を記録するだけでなく、こうした「そもそも、このツールである必要があるのか」という根本的な問いを立てる機会にもなります。ノーコードツールとExcelそれぞれの向き不向きについては、ノーコードツールでExcel業務を置き換える選択肢比較でも整理しているので、棚卸しの判断材料としてあわせて参考にしてください。

棚卸し結果を経営会議でどう報告するか

棚卸しが完了したら、その結果を経営層に報告する機会を持つことをお勧めします。報告の際は、単にツールの一覧を並べるのではなく、次のような切り口で整理すると、経営判断につながりやすい報告になります。

報告項目具体的な内容
総契約数・総費用会社全体で契約しているツールの総数と、月額・年額の合計費用
重複が疑われる契約同じ用途で複数契約されているものの一覧と、統合した場合の削減見込み額
未使用・低稼働の契約ログイン履歴などから使われていないと判断されるツールと、解約した場合の削減見込み額
リスクのある契約管理者が退職・異動済みで、実質的に誰も管理していない契約

この形で報告すると、経営層にとっても「コスト削減の余地がどれくらいあるか」「セキュリティ上のリスクがどこにあるか」が一目で分かり、棚卸し作業への投資対効果を示しやすくなります。特に、重複契約の統合による削減額は、具体的な金額で示せると説得力が増します。

棚卸しを継続するための最小限の負荷設計

一度きりの棚卸しで満足せず、継続的に実施していくためには、次回の棚卸しにかかる負荷を、初回よりも大幅に減らす工夫が欠かせません。初回と同じ労力を毎回かけるのでは、いずれ棚卸し自体が続かなくなります。

継続のコツとしては、次のような工夫が挙げられます。

  • 初回の棚卸しで作った台帳を、その後も更新し続けられるフォーマットで整備しておく(新規契約のたびに追記するだけで済む形にする)
  • 契約更新のタイミング(多くのSaaSは年間契約が多く、更新月が決まっている)をあらかじめ台帳に記録し、更新月が近づいたら自動的に見直しの合図が出る仕組みを作る
  • 全部署を一度に見直すのではなく、四半期ごとに1〜2部署ずつ、ローテーションで確認する

この最小限の負荷設計があれば、棚卸しは「大変な特別プロジェクト」から「日常業務の一部」へと変わっていきます。

30人規模だからこそ、今のうちに着手する意味がある

ノーコードツールの棚卸しは、組織の規模が大きくなればなるほど、対象となるツールの数も、関わる部署の数も増え、着手のハードルが上がっていきます。逆に、30人規模というタイミングは、まだ部署の数が少なく、契約しているツールの総数もそこまで膨大にはなっていない、比較的着手しやすい段階だと言えます。

この段階で棚卸しの習慣を作っておくと、次のような効果が期待できます。

  • 組織がさらに拡大しても、契約状況を把握できなくなる前に、管理の仕組みがすでに機能している状態を維持できる
  • 新しく入社する社員に対しても、「新しいツールを試すときは、ひとこと総務・情シスに共有する」という文化を、当たり前のルールとして伝えやすくなる
  • 将来、専任の情シス担当者が置かれるようになったとき、すでに整備された台帳があることで、引き継ぎがスムーズになる

逆に、この段階で棚卸しを先送りにすると、組織が50人、100人と拡大した頃には、把握しきれないほどのツールが積み重なり、棚卸しそのものが一大プロジェクトになってしまいます。実際、ひとり情シスに任命されたら、何からやれば会社を止めずに済むかで扱っている「最初の90日」の多くの時間が、まさにこうした棚卸し作業に費やされているという実態があります。30-100人規模になってから慌てて着手するよりも、今のうちに小さく始めておくほうが、将来の負担を確実に減らせます。

棚卸しを支える最低限のITリテラシー

棚卸しを実施する担当者自身が、ノーコードツールについて詳しい専門知識を持っている必要はありません。ただし、次のような最低限の視点は持っておくと、棚卸し作業がスムーズに進みます。

  • クラウドサービスは「契約したら終わり」ではなく、「使い続ける限り費用が発生し続ける」ものであるという基本的な理解
  • 無料プランと有料プランの境界(何をきっかけに課金が発生するのか)を、少なくとも主要なツールについては把握しておく
  • 「このツールを止めたら、何が困るか」を、契約者以外の視点でも想像してみる習慣

これらは専門的な技術知識というより、コスト管理・リスク管理の基本的な視点です。総務や経理の担当者であれば、すでに他の契約管理業務で似たような視点を持っていることが多く、ノーコードツールの棚卸しも、その延長として無理なく取り組めるはずです。

棚卸しを終えた後の理想的な状態を言語化しておく

棚卸しプロジェクトを始める前に、「棚卸しが完了した後、どんな状態を目指すのか」を関係者間であらかじめ言語化しておくと、作業のゴールがぶれにくくなります。理想的な状態の一例を挙げると、次のようなイメージです。

  • 会社として契約しているクラウドサービスの一覧が、常に最新の状態で1つの台帳にまとまっている
  • 新しいツールを契約する際は、既存のツールで代替できないかを一度確認する習慣が根づいている
  • 担当者が異動・退職しても、契約しているツールの管理者権限を誰かが引き継げる体制になっている
  • 経営層が、IT関連のコストの全体像をいつでも把握できる状態になっている

この理想像を最初に共有しておくことで、棚卸しという地道な作業が、単なる「面倒な確認作業」ではなく「会社の将来のための投資」として、関係者に前向きに受け止められやすくなります。

まとめ: 棚卸しは一度で終わらせず、仕組みとして残す

各部署が個別に契約したノーコードツールの棚卸しは、複数の入口から情報を集め、統一フォーマットの台帳にまとめ、重複や未使用のツールを見つけ出すという、地道な作業の積み重ねです。10-30人という段階は、部署の数がまだそれほど多くなく、この作業に着手しやすいタイミングでもあります。

棚卸しを終えたら、それを一度きりの作業で終わらせず、新規契約時の申請フローや定期的な見直しサイクルという「仕組み」に落とし込むことが、長期的な効果につながります。自社のIT管理全体の状況を体系的に把握したい場合は、ひとり情シス危険度診断チェックリスト集もあわせて活用してください。