社員数が30人を超えたあたりから、多くの会社で「脱Excel」というキーワードが社内で語られ始めます。部署ごとの台帳がバラバラ、ファイルが増殖して収拾がつかない、二重入力が常態化している、勤怠管理が法対応の観点で危うい――問題を並べ始めると、対処すべき対象は際限なく出てきます。しかし、これらすべてに同時並行で着手できる余力を持つ会社は、この規模ではほとんど存在しません。専任の情シス担当者を置く余裕がなく、総務や経理と兼任しながら1人でこなしているケースが大半だからです。
このガイドは、「脱Excel」という大きなテーマの中で、兼任情シスが1人という現実的な制約を前提に、どの業務・どの台帳から着手すべきかを判断するための優先順位のつけ方を整理します。個別の技術的な移行手順ではなく、複数の候補を前にしたときの「選び方」そのものに焦点を当てます。
なぜ「全部やる」計画が必ず破綻するのか
脱Excelのプロジェクトが立ち上がるとき、最初に作られがちなのが「対象業務の全リスト」です。顧客管理、在庫管理、勤怠管理、案件管理、経費精算、資産管理――洗い出せば10や20の候補がすぐに挙がります。このリストを前に、「全部を今年度中に片付けよう」という野心的な計画を立ててしまうのが、最初のつまずきです。
専任チームがいれば並行して複数のプロジェクトを進めることもできますが、兼任情シスは本業と情シス業務を掛け持ちしています。1つの業務のシステム化を進めるだけでも、現状調査、部署へのヒアリング、要件の整理、ツールの選定、移行作業、現場への説明と定着支援という一連の工程が発生し、片手間でこなすには相応の時間がかかります。これを複数の業務で同時に走らせようとすると、どのプロジェクトも中途半端な状態で停滞し、結果的に「脱Excelを頑張っていたはずなのに、1年経っても何も変わっていない」という状況に陥りがちです。
したがって、脱Excelプロジェクトの成否を分けるのは、技術力よりもまず「どの順番でやるか」を正しく決められるかどうかにかかっています。
さらに厄介なのは、「全部やる」計画が破綻し始めても、それが表面化するまでに時間がかかることです。最初の数ヶ月は複数のプロジェクトが同時に「進行中」というステータスのまま並んでいるように見えます。しかし実態は、どのプロジェクトも週に数十分しか手をつけられておらず、ヒアリングの返信待ちや、資料整理の途中で止まったままの状態が積み重なっています。半年ほど経ってから経営層に進捗を聞かれて初めて、「結局どれも完了していない」という事実に直面する、というのがよくあるパターンです。この事態を避けるためにも、最初の時点で「同時に進めるプロジェクトは1つ、多くても2つまで」という上限を自分の中で決めておくことをおすすめします。
なぜ1〜2つが妥当な上限なのかというと、兼任情シスが本業に割く時間を考慮すると、情シス業務に使える時間は週あたり数時間から1日分程度に収まることが多いためです。この限られた時間の中で、ヒアリングの調整、資料の作成、部署への説明、実際の移行作業を並行して回せる案件数には自ずと上限があります。上限を超えて案件を抱えると、どの案件も「思い出したときに少し進める」程度の頻度に薄まり、関係者の記憶からも徐々に忘れられていきます。結果として、ヒアリングの内容を再度聞き直す、資料を最初から作り直すといった二度手間が発生し、かえって全体の完了までの時間が伸びてしまいます。
優先順位を決める3つの軸
対象業務を並べ替える際に使う軸は、次の3つです。それぞれの業務についてスコアをつけるところから始めてください。
軸1: 実害の大きさ(リスクの深刻度)
現状のExcel運用のまま放置した場合に、どれだけ深刻な問題につながるかを評価します。次のような観点で確認してください。
- 法令や契約上の義務に関わる業務か(勤怠管理における労働時間の客観的把握、個人情報を扱う顧客管理など)
- 誤り・漏洩が起きた場合、金銭的損失や信頼の失墜につながるか
- 現在すでに、ミスやトラブルが実際に発生しているか、その予兆が出ているか
法対応に関わる勤怠管理などは、法令上の記録義務が明確に定められている領域であるため、優先度を高く見積もるべき典型例です。厚生労働省のガイドラインでは、労働時間の把握についてタイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録など客観的な記録を基礎とすることが原則とされており、Excelへの手入力に依存した勤怠管理は、この観点から弱点を抱えやすい領域です。自社の勤怠管理がこの観点でどれだけ危ういかをより詳しく確認したい場合は「Excelでの勤怠管理はもう限界?法対応の観点から」もあわせて参照してください。
同様に、個人情報を扱う顧客管理台帳も、実害の大きさを高めに見積もるべき領域です。個人情報保護委員会は事業者に対し、取り扱う個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを求めており、アクセス権限の管理が緩いExcelファイルで顧客の個人情報を管理し続けることは、情報漏洩のリスクという観点でも軽視できません。特にファイルがメールで頻繁にやり取りされている、複数人が編集可能な共有フォルダに置かれたまま権限管理がされていない、といった状態であれば、実害の大きさのスコアを引き上げて検討してください。
実害の大きさを評価する際に見落としがちなのが、「まだ何も起きていないから大丈夫」という誤った安心感です。ミスやトラブルが顕在化していない業務であっても、属人化が進み、担当者が1人しかその運用を理解していない状態であれば、その担当者の急な休職や退職が起きた瞬間に一気に業務が止まるリスクを抱えています。表面上のトラブルの有無だけでなく、「今この担当者が抜けたら何が起きるか」という視点も、実害の大きさを見積もる際の判断材料に加えてください。
軸2: 影響範囲の広さ
その業務のExcel運用に関わっている人数・部署数を評価します。1人だけが使っている台帳と、全社員が日常的に触れる台帳とでは、システム化による恩恵も、逆に移行の際の調整コストも大きく異なります。
- 関わる部署が1つか、複数にまたがっているか
- 利用者数がどの程度か(数名なのか、全社員なのか)
- その業務が止まった場合、他の業務にどこまで波及するか
影響範囲が広い業務は、システム化できたときの効果が大きい一方、部署間の調整も重くなります。逆に影響範囲が狭い業務は、調整の負担が軽く、兼任情シスが単独でも進めやすいという特徴があります。
影響範囲を評価する際は、「直接その台帳を触る人数」だけでなく、「その台帳の出力結果を参照している人数」も含めて考えてください。たとえば経理部だけが更新している経費台帳であっても、その集計結果を毎月の経営会議で役員全員が参照しているのであれば、直接の利用者は少数でも、間接的な影響範囲は広いと評価すべきです。逆に、多くの人が入力に関わっていても、その結果を誰も見ていない台帳であれば、影響範囲は見た目ほど大きくないという判断もあり得ます。
軸3: 着手のしやすさ(技術的・組織的な難易度)
同じくらい重要なのが、実際に着手する際のハードルの高さです。次のような観点で見積もってください。
- 業務フロー自体がシンプルで、大きな変更を伴わずにシステム化できそうか
- 対象の台帳を使っている人たちが、変化に協力的か、抵抗が予想されるか
- 予算をかけずに(あるいは低予算で)着手できる選択肢があるか
- クレンジングが必要なデータの量・汚れ具合はどの程度か
この3軸を、対象業務ごとに簡易的にスコアリングする表を作ると、優先順位が可視化されます。
| 業務 | 実害の大きさ | 影響範囲 | 着手のしやすさ |
|---|---|---|---|
| 勤怠管理(Excel手入力) | 高 | 全社 | 中(打刻ツール導入が必要) |
| 部署間の顧客台帳の不一致 | 中 | 2〜3部署 | 中(合意形成が必要) |
| 特定業務の二重入力 | 中 | 2部署 | 高(低予算での自動化余地あり) |
| 個人管理の小規模な台帳の乱立 | 低 | 個人〜小部署 | 高(単独でも進めやすい) |
この表はあくまで一例であり、自社の実態に合わせて業務名や評価を差し替えて作成してください。重要なのは表の形式そのものではなく、感覚だけで「なんとなく重要そうだから」と優先順位を決めるのではなく、複数の軸で言語化してから判断するプロセスを踏むことです。言語化された判断は、後から見直す際にも、他者に説明する際にも再利用できる資産になります。
優先順位の組み立て方: 「効果が大きい」と「着手しやすい」は別
3軸でスコアをつけた後、多くの担当者が悩むのが「実害が大きく影響範囲も広いが、着手が難しい業務」と「実害は小さいが、すぐに着手できる業務」のどちらを先にやるべきか、という判断です。
結論から言うと、兼任情シスが1人で進める場合は、最初の1〜2件は「着手しやすさ」を優先して選ぶことをおすすめします。理由は次の3つです。
- 成功体験が必要: 最初のプロジェクトでつまずくと、その後の脱Excelプロジェクト全体への社内の信頼が損なわれます。小さくても確実に完了させる経験を積むことで、次のより難しいプロジェクトへの周囲の協力も得やすくなります。
- 本業との両立を維持できる: 難易度の高いプロジェクトに最初から挑むと、想定以上に時間を取られ、本業に支障をきたすリスクが高まります。着手しやすい案件から始めることで、無理のないペース配分を作れます。
- ノウハウの蓄積: 小さな移行プロジェクトを通じて、ヒアリングの進め方、部署との調整の勘所、ツールの使い方といったノウハウが蓄積されます。これは、後により大きく難しいプロジェクトに取り組む際の土台になります。
ただし、これは「実害の大きい業務を後回しにしてよい」という意味ではありません。実害が高いと評価した業務については、たとえ着手が本格化するのが後になっても、応急的な対処だけは並行して進めておく必要があります。たとえば勤怠管理であれば、システム化自体は数ヶ月後になったとしても、客観的な記録を残すための最低限の運用改善(手入力の承認フローの厳格化など)は早い段階で手を打っておく、という考え方です。
優先順位マトリクスで全体を俯瞰する
3軸のスコアリングをさらに単純化し、「実害・影響範囲(合わせて『重要度』とする)」と「着手のしやすさ」の2軸マトリクスに落とし込むと、全体像がひと目で分かるようになります。
- 重要度が高く、着手しやすい: 最優先。すぐに着手する
- 重要度が高いが、着手が難しい: 応急対処をしながら、着手の障壁(予算・合意形成など)を並行して取り除く準備を進める
- 重要度は低いが、着手しやすい: 2番手として、最優先案件の合間や息抜き的に進める
- 重要度が低く、着手も難しい: 当面は着手しない。半年〜1年ごとに状況が変わっていないか見直す程度でよい
このマトリクスを最初に一度作ったら終わりにせず、四半期に一度など定期的に見直すことをおすすめします。業務の状況、部署の体制、会社の成長フェーズは常に変化しており、半年前は「着手が難しい」に分類されていた案件が、部署の担当者交代などをきっかけに「着手しやすい」側に移動することもあります。
マトリクスの運用方法としては、Excelやスプレッドシートの1シートに、対象業務・3軸のスコア・現在のステータス(未着手/準備中/進行中/完了)・次のアクションを1行ずつ並べた一覧表を作り、それを兼任情シス自身の「脱Excelプロジェクト管理台帳」として運用することをおすすめします。皮肉なことに、脱Excelの進捗管理そのものはExcelで十分です。この段階で凝ったツールを導入する必要はなく、まずは自分が全体を見渡せる状態を作ることを優先してください。この一覧表は、経営層への進捗報告の際にもそのまま使える資料になります。
ケース別の考え方: よくある優先順位の悩みどころ
ケース1: 「声が大きい部署」の要望を優先すべきか
現場から「うちの台帳、なんとかしてほしい」という声が上がると、つい優先的に対応したくなりますが、声の大きさと実害の大きさは必ずしも一致しません。要望が来た際は、まず3軸のスコアリングに当てはめて客観的に評価し、他の候補と比較した上で順位を決めてください。声を無視するのではなく、「今すぐ着手はできないが、いつ頃着手する見込みか」を伝えるだけでも、要望を上げた部署の納得感は大きく変わります。
ケース2: 経営層から突然「あれをシステム化しろ」と言われた場合
経営層からのトップダウンの指示は、社内政治上、無視できないケースが多いはずです。この場合は、既存の優先順位マトリクスの中に指示された案件を組み込み、「なぜこの順位になるのか」を数字と根拠を添えて説明することをおすすめします。何の説明もなく指示通りに動くと、次から次へと思いつきの指示に振り回されることになりかねません。逆に、根拠を示して優先順位の合意を取り付けられれば、経営層を「脱Excelプロジェクトの理解者」に変えることができます。
ケース3: どの業務も似たようなスコアで差がつかない場合
複数の業務が同じくらいのスコアになり、決め手がない場合は、「どれが最も早く成果を実感できるか」を最後の決め手にしてください。兼任情シスにとって、周囲から「変化が実感できる」ことは、その後の協力を得るための重要な資産になります。効果が体感しやすい業務から着手することで、次のプロジェクトへの社内の後押しを得やすくなります。
ケース4: 前任者や外部から「これが最優先」と言われている場合
前任の担当者からの引き継ぎメモや、取引先・ベンダーからの提案の中で、特定の業務のシステム化が「最優先」と位置づけられていることがあります。しかし、これらの情報は作成された時点の状況を反映したものであり、現時点でも最優先であるとは限りません。特に前任者からの引き継ぎメモは、前任者が異動・退職する直前の駆け込みの記録である場合も多く、当時の課題感がそのまま現在にも当てはまるとは限りません。鵜呑みにせず、自分自身で3軸のスコアリングに当てはめ直し、現状に即した優先順位かどうかを検証してから採用してください。
ケース5: 予算が急に確保できることになった場合
補助金の採択や、決算期末の予算消化など、通常とは異なるタイミングでまとまった予算が急に使えるようになることがあります。この場合、普段は「着手が難しい(予算がネック)」に分類されていた重要度の高い案件が、一時的に「着手しやすい」側に移動します。予算の期限がある場合は、通常の優先順位を一時的に組み替えて、この機会にしか着手できない案件を優先することも合理的な判断です。ただし、予算があるからといって重要度の低い案件にまで手を広げると、後の運用フェーズでリソース不足に陥るので、あくまで重要度の高い案件から優先して予算を充てるようにしてください。
優先順位づけの前提: まず全体像を把握しておく
優先順位をつける作業は、対象となる業務や台帳の全体像がある程度見えていることが前提になります。全社にどれだけのExcel台帳が存在し、どの部署がどう使っているかをまだ把握できていない場合は、優先順位づけの前段階として、まず棚卸しから始める必要があります。特に共有フォルダの中にExcelファイルが大量に散らばっていて全体像がつかめない場合は「全社共有フォルダのExcelファイルが100個を超えたときの整理と移行の始め方」を、部署間でフォーマットがバラバラな台帳が複数ある場合は「部署ごとにバラバラなExcel台帳を統一するときの進め方」を先に参照すると、優先順位づけの土台となる情報が整理しやすくなります。
優先順位が決まった後: 着手前に予算感とリソースの現実を確認する
優先順位のリストが完成したら、着手前にもう一つ確認しておくべきことがあります。それは、その業務のシステム化にどれだけの予算とリソースを割けるかという現実です。30-100人規模の会社では、脱Excelのための潤沢な予算が最初から確保されているケースは稀で、多くの場合、ゼロ予算に近い状態から低コストでできる範囲を探ることになります。特に部署間の二重入力の解消のように、低予算でも自動化の余地がある業務は「部署をまたぐExcel二重入力をひとり情シスがゼロ予算に近い形で解消する方法」で具体的な選択肢を紹介しているので、優先順位が高いのに予算がネックになっている案件があれば参照してください。
また、現場の協力なしにはどんなに優先順位を正しくつけても移行は進みません。着手する業務が決まったら、早い段階から現場を巻き込み、抵抗を最小化しながら進める準備をしておくことも重要です。社内説得の進め方については「現場の反発を避けながらExcel運用から脱却する社内説得の進め方」にまとめています。
優先順位づけを1人で抱え込まない
優先順位のスコアリングやマトリクスの作成そのものは1人でできますが、最終的な決定を完全に自分1人の判断だけで下すことはおすすめしません。理由は2つあります。
1つは、兼任情シスは自分の担当部署以外の業務実態を正確に把握しきれていないことが多いためです。総務や経理を兼任している担当者が、営業部や製造現場の業務の深刻さを実感を持って評価するのは簡単ではありません。各部署の責任者に、簡単なヒアリングや優先順位案への意見出しの機会を設けることで、自分だけでは見えていなかったリスクや緊急性に気づけることがあります。
もう1つは、優先順位の決定に経営層の関与を得ておくことで、後々の「なぜあの案件を優先したのか」という説明責任を分散できるという実務上のメリットです。特に、実害は大きいが着手が難しい案件を後回しにする決定をした場合、その判断の背景を経営層と共有しておかないと、何かトラブルが起きた際に「なぜ対処していなかったのか」という責任が兼任情シス個人に集中しかねません。四半期に一度など定期的なタイミングで、優先順位のマトリクスを簡単な資料にまとめ、経営層に共有・承認を得るプロセスを組み込んでおくと、この種のリスクを避けられます。
スコアリングを数値化してみる: 簡易な優先度指数の作り方
3軸での評価をより客観的にしたい場合は、各軸を1〜3点でスコアリングし、合計点で並べ替えるという簡易な方法も有効です。
- 実害の大きさ: 1点(軽微)・2点(中程度、放置すると数ヶ月〜1年で問題化)・3点(重大、法令違反や重大インシデントに直結しうる)
- 影響範囲: 1点(個人・小部署)・2点(複数部署)・3点(全社)
- 着手のしやすさ: 1点(合意形成・予算確保のハードルが高い)・2点(部分的な調整が必要)・3点(すぐ着手できる)
このうち「実害の大きさ」と「影響範囲」は単純に合算し、「着手のしやすさ」は別軸として扱うのがポイントです。合算した重要度スコアが高く、かつ着手のしやすさスコアも高い案件が最優先候補になります。重要度スコアは高いが着手のしやすさが低い案件は、応急対処をしながら着手の障壁を取り除く準備を進める中期候補として扱ってください。
この数値化はあくまで判断を助けるための道具であり、絶対的な正解を導き出すものではありません。スコアが僅差の案件については、最終的には現場の感覚や会社の直近の状況(繁忙期・決算期・システム更新のタイミングなど)を加味した人の判断で決定して構いません。重要なのは、判断の根拠を誰かに説明できる形で残しておくことです。
なお、スコアリングの点数はあくまで社内での相対比較のための目安であり、他社の事例やインターネット上の一般論をそのまま当てはめる必要はありません。同じ「勤怠管理のExcel運用」であっても、すでに客観的な打刻記録の仕組みが別途存在し、Excelは補助的な集計にしか使っていない会社であれば実害のスコアは下がりますし、逆にExcelへの手入力がそのまま給与計算の根拠になっている会社であれば実害のスコアは高くなります。自社の実際の業務フローを踏まえてスコアをつけることが、優先順位づけの精度を左右します。
優先順位が低い案件を「やらない」と決める勇気
優先順位づけの最後のステップとして、あえて触れておきたいのが「当面着手しない」と決めた案件の扱いです。重要度も低く、着手のハードルも高い案件をリストの下位に置いたままにしておくと、時間の経過とともに「なぜあれは放置されているのか」と聞かれることがあります。
このとき、「後回しにしている」という曖昧な説明ではなく、「重要度と着手のしやすさを評価した結果、現時点では優先度が低いと判断した」という根拠を明確に説明できる状態にしておくことが重要です。あわせて、「では、いつになったら着手を検討するのか」という見直しのタイミングも決めておくと、単なる先送りではなく、意図的な判断であることが伝わります。半年後や次年度の予算編成のタイミングなど、具体的な見直し時期をリストに記載しておくとよいでしょう。
すべての業務を等しく重要視しようとすると、結局どれも中途半端になり、兼任情シス自身が疲弊してしまいます。「今はやらない」と明確に線を引くことは、逃げではなく、限られたリソースを本当に必要な場所に集中させるための意思決定です。この判断を経営層と共有しておけば、「あの担当者は何もやっていない」という誤解を避けることにもつながります。
まとめ: 優先順位づけは一度きりの作業ではない
脱Excelプロジェクトの優先順位づけは、最初に一度リストを作って終わりにするものではなく、状況の変化に合わせて継続的に見直していく作業です。兼任情シスという制約の中では、「全部を同時に」ではなく「今どれか1つに集中し、終わったら次に移る」というやり方のほうが、結果的に多くの業務を着実にシステム化できます。実害の大きさ・影響範囲・着手のしやすさという3つの軸を持っておけば、次から次へと降ってくる「あれもやってほしい」という要望に対しても、感覚ではなく根拠を持って優先順位を説明できるようになります。この説明力そのものが、兼任情シスが社内で信頼を積み重ねていくための土台になります。
優先順位が決まり、実際にプロジェクトを進める段階に入ったら、このガイドで扱った「何から着手するか」の判断を土台に、個別の業務ごとの具体的な進め方に取り組んでください。部署間の台帳統一、ファイルの整理、現場との合意形成、低予算での自動化など、それぞれのテーマは別の記事で詳しく扱っています。優先順位という地図を手に、1つずつ確実にゴールへ近づけていきましょう。
最初にリストアップした対象業務の数が多く、気が遠くなるように感じたとしても、心配しすぎる必要はありません。優先順位という地図さえ手元にあれば、1つずつ着実に片付けていくことで、数年単位で振り返ったときには驚くほど多くの業務が改善されているものです。焦らず、しかし着実に、今日の1つの判断から始めてください。

